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カタカタと音を鳴らしながら揺れる鍋を、木べらでゆっくりと掻き混ぜる。うっすらと浮いてきたアクを取り除けば、鍋の中身は澄んでいく。
いくつも浮かんでは消えていく、恨みつらみも掬い取れたら、どれほど楽なのだろうか。
僕の心の中とは裏腹に、鍋の中身は透明度が高い。鶏肉に、ボイルホタテに、玉ねぎ、ジャガイモ。人参は父も僕も嫌いなので無し。泡が端の方でぷくぷくと音を立てていた。
「クリームシチューか」
十文字近い言葉を発する父を見たのは、久しぶりな気がして驚きつつ振り返る。
「おう」
変なところばかり似てしまったらしい。僕だって、父と会話する時に何を言えばいいか分からなくて「おう」しか言えない。
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