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言葉にして、胸がちくん、と痛んだ。向いてなかったんだ、確かに。諦める理由にはもってこいだな。
自嘲気味に笑っていた僕に、父さんは振り返って冷たい目をしていた。
父さんに僕を咎める、権利はない。会話もなく、ただ黙々とテレビを見つめて、僕のことなんて今までだって見てなかったくせに。
「なに」
「辞めたきゃ辞めればいい」
「だから、辞めたじゃん」
「そうだな」
言いたい意味が分からなくて首を傾げる。鍋と向き合う父さんの背中はそれでもやっぱり、僕の憧れが詰まっていて大きい。なんで憧れたかなんて、もう思い出せない。でも、僕は父さんになりたかった。
だから、誰に馬鹿にされても前を向いて走ってきたつもりだった。いつか、周りに勝つぞ、と思いながら。奇跡なんて、どんなに努力したって起こることはなく僕はいつまで経ってもビリのままだったけど。
ぽきん、と心が折れた理由は分かっている。一年生に抜かされたことだった。三年間頑張ってきた僕よりも、初参加の一年生の方が早かった。ただ、それだけだ。
父さんの背中には近づけないまま、僕は諦めたんだ。走ることを。
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