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「好きじゃないなら、好きなことをやれ。別に無理する必要はない」
「今日はやけに饒舌だね」
「そうかもな」
「料理は好きかも」
「いいんじゃないか、母さんに似たのかな」
母さんは確かに料理上手だし、料理好きだった。仕事から帰ってきた後でも、「今日は角煮の気分だから、今から作る!」なんて言って料理をし始める。だから、僕の家の冷蔵庫はいつだって母さんの料理で一杯だ。
「でもさ、父さんみたいに早く走りたかった」
「なんでだ」
「なんでって、そりゃあ格好良かったから」
「いつの話だ」
そう言って歯を見せて笑った父さんは、顔に皺をいっぱい刻んでいる。記憶の父さんの顔よりだいぶ年老いていて、なんとも言えない気持ちが胸に湧き上がった。
いつの話か問われて、やっと思い出した。僕が転びそうになった瞬間に、すごい勢いで父さんは走ってきた。そのまま抱き上げて今まで聞いたこともない大きな声で「大丈夫か!」なんて言うから、僕はびっくりして泣いたんだ。
痛くもなかったし、焦った父さんが面白くて泣き止んだけど。
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