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石蕗の叫び
「……貴女が不平不満、不便に思っている事を知りたい」
肌触りの良さそうで真新しい洋服と着物。華やかなアクセサリーやブランド物のバッグ、煌びやかな宝石。一見しただけで値の張る物だと窺えるそれから逃げるように、夜空はうつむいて両手で耳を塞ぎ、肩を震わせる。夜空は恐ろしかった。自分を思い通りに出来る男が。金と権力で全てどうにかなると考える、かつてのアルバイト先の常連客が。
「何が欲しい。何をすれば貴女は私を見てくれる……?」
普段は冷徹にみえる程に落ち着いている風仁はもう居ない。此処に居るのは許しを乞うように夜空の縋り付き、ただ愚直に愛を乞う愚かな男だけだ。しかし彼が夜空に縋れば縋る程、彼女は彼を恐れて身を震わせる。
彼女は自分を恐れて萎縮している。それでも逃がしてやれない。可哀想だと思ってもそれは一瞬の罪悪感でしかないのだ。次の瞬間にはどうすれば彼女の愛を自分のものに出来るか、愚かな打算を考え始める自分が居る。
「夜空、私は貴女が好きだ。どうしようもないくらい好きで好きで好きで堪らない……!」
本心からの言葉だった。他の男を選ぶなんて考えたくもない程に、そうなる事を決して許せないと思うくらいに。風仁は夜空を愛している。だから彼は彼女を無理矢理部屋に連れてきて、部屋に頑丈なセキュリティが施された箱庭の中に閉じ込めた。剰え、逃げようとすれば外に居る彼女の身内に危害を加えると脅し、風仁は自分なりの誠意を出した愛を押し付けた。それが一層彼女の恐怖を肥大させている事に気づいていない。
「愛している。私の傍に居てくれ。頼むから私から逃げないでくれ。不自由なんてさせない、貴女の望むものは全て此処に揃える。貴女のためなら私は何でも出来る。本当だ、信じてくれ、私を捨てないでくれ」
彼なりの愛の言葉を囁きながら、風仁は強く夜空の躰を抱きしめた。これでも駄目だったら次は子を成そうとも考え始めていた。逃げてしまう、離れてしまうなら身重にして何処にも行けないようにすれば良い。いつか彼女は自分を愛してくれる、かもしれない。茫洋とした希望を抱く男は、酷く哀れな人間でしかない。
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