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「にゃー」
猫の鳴く声がする。
可愛らしい、愛嬌のある感じ。時折頬に触れるふわふわとした何かは、多分猫の肉球だろう。
適度に触れるそれがくすぐったくて振り払うけれど、何度も私の頬を掠める。
耐えきれなくなって瞼を押し上げると、翡翠色の瞳と目があった。可愛らしい声でもう一度、にゃーと鳴く。
「……そっか」
拾ったんだった、と昨日のことを思い出す。真城くんをぶっ飛ばして、飲みに出た帰りに連れて帰って来たんだった。
ゆっくりと起き上がり、カレンダーを見る。今日は水曜、普通に仕事だ。行かなくても良い理由を探すかのように時計を見た。
時刻は7時50分。急げば間に合わなくもないけれど、昨日のこともあって全く出勤する気にはなれなかった。一日くらいはゆっくりしてこれからのことを考えたって、怒られたりしないはずだ。
二度寝でもしようと思っていると、猫が私の膝に座る。
人懐っこい猫だと思っていたが、よく考えたらお腹が空いていたのかもしれない。
昨日、スーパーで猫用のフードを買っていたことを思い出す。とりあえずご飯でも食べて落ち着くのが吉だろう。
「待ってね、ご飯準備するから」
「にゃー」
「お前は本当に良い子だね」
もっと走り回っていろんなものを薙ぎ倒されたり、ぶちまけられると思っていた。
身体中を怪我しているからなのか、元々の性格か。動き回りはするものの、そこまで走り回る様子も何かを物色する様子もない。壁とかに傷でもつけられたと思ったけれど、その心配はなさそうだ。
「名前、何にしようか」
野良とは言え、名前なしでは可哀想だ。
猫缶を開けながら、私は猫缶のラッピングに目を奪われる。
「んー……まぐろ?」
「にゃー」
「まぐろ」
「にゃ?」
呼応するかのように鳴く猫に、思わず笑いそうになる。
まぐろが気に入ったのか、まぐろと言う度に猫は可愛い声で鳴く。もはやこれはまぐろ以外に命名出来まい。
「じゃあ、名前はまぐろね」
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