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成敗してやる
この世には全てを他人のせいにする人間がいる。
自分の失敗は全部他人のせい、自分が悪いことをしたのも他人のせい。あいつが悪いから、あいつのせいでと喚く人間ほど見苦しいものは無い。嫌悪されて当然の人種だ。
かつて私が恋した男もそうだった。
昨年まではあれやこれやと難癖をつけていた彼は、今年に入って急にそれを止めた。あからさまに態度が変わったことを、もっと不思議に思うべきだったのかもしれない。
今となってはどうでも良いことなのだけど。
浮気したことを私のせいだと宣う元彼を、ぶっ飛ばしてやったのは三時間前だったか。
殴って清々しい気持ちになるかと思ったがそうも行かず、もやもやと言葉にならない感情が胸を燻る。
誤魔化すように自宅で自棄酒をしていたものの、そのもやもやが消えなかった。
ならばと外に繰り出し、馴染みの店で酒を引っ掛けながら憂さ晴らしをしてみたけれど、結局虚しくなって帰ることにした。
それがついさっきのことだ。
視界が回るくらいにフラフラしていたが、人と言うのは酒に酔っていても不思議と冷静になることもあるらしい。
目の前に転がったその毛玉は、ところどころ毛が抜け落ちていて傷だらけだった。今の私の心と同じそれがとても可哀想で、普段は絶対捨て猫とか野良の動物を拾ったりはしないのだけど、ついうっかり拾ってしまった。
まだぬくもりのあるそれが生きていることに、どうしようもなく心が揺れる。こんなにボロボロでも、この子は生きているのだ。私が守ってあげないと、と言う謎の使命感に駆られて、千鳥足なりに精一杯の速さで帰宅した。
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