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「大変だったね」
頭をひと撫でし声をかけてみるも、毛布に包んだ猫は動かない。
死んでしまったのではないかと不安になるけれど、微かに寝息が聴こえる。何とも呑気な子だ。
小さめの洗面器にお湯を張り、適温になるよう手でかき混ぜていると、もぞりと毛玉が動いた。
「起きた?」
「……」
「返事するわけないか」
タオルで軽く手を拭く。戸棚を確認しながら、使えそうなものはないかと思考を巡らせる。
家に猫用のシャンプーはない。途中で買って来ればよかったと思いつつも、猫を抱えていたのだからそれも無理かと冷静になる。
子猫ではないけれど、猫に人間のシャンプーは使えない。肌の傷付いた猫なら尚更だろう。
もぞもぞと動く猫を見て、私は財布を片手に家を出た。近くのスーパーまではそう遠くない。それなりに大きな店だし、一種類くらいは猫用のシャンプーを置いているだろう。
下手に他の物を探すよりは、買いに走る方が早いと思った。家に猫を置いて行くのは気が引けたが、あれほどに傷付いて弱っている猫ならば暴れまわるとも思えない。部屋の電気は付けて来たし、多分大丈夫だ。
スーパーに入ると、何も考えずにペット用のコーナーへ走る。ペットフードの置いてある下段に、ひっそりとシャンプーがあった。最後の一本。ほっとしつつ、猫用のフードと一緒に購入し、私は猫の待つ自宅へと戻った。
温度を調節した湯船は冷えてしまっているだろうなと自分の無計画さに呆れながらも、バスルームの前に置かれた毛布の中に猫の姿があってほっとする。
「もう大丈夫だからね」
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