成敗してやる

4/6
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 大丈夫だと背中を撫でてあげると、仕方なしと言った様子で猫は手の力を弱める。偶然だとは思うけれど、私の言葉を理解しているようにも見えた。  何回かお湯で傷を洗いながら、汚れが取れるまで繰り返す。最後にシャンプーをするけれど、猫は特に抵抗することも無かった。  泡を洗い流し、傷に触れないよう身体を拭く。バスタオルに包れた猫を机に下ろして、部屋のヒーターを付けた。  コートをクローゼットにかけ、着替えを持って脱衣所に向かう。さっき猫を抱えたときに服が濡れてしまったから、とりあえず着替えだけはしておこう。  濡れた服と猫を包んでいた毛布を洗濯機に放り込み、スイッチを押す。化粧を落とそうと蛇口を捻るけれど、遠くから弱弱しい鳴き声がした。  リビングに戻ると、猫がぶんぶんと首を振り、バスタオルから出てくる。  よろよろと危うい足取りで猫が近寄って来たかと思うと、私の足元でぱたりと倒れた。自分の傷跡を舐める猫の頭を、そっと撫でる。 「お腹空いた?」 「みゃーお」  一回だけ鳴いた猫を抱え、机の上のバスタオルを回収するとそのままソファに腰を下ろす。  バスタオルでまだ濡れている毛を拭きながら、これからのことを考える。  思わず拾ってしまったけれど、この子を家で育てることは出来ない。こっそり連れ帰っては来たが、本来ならば私の住むこのマンションはペット禁止だ。気付かれないうちにどうにかしなければならない。  でも、だからと言って、こんなにも傷だらけの猫をまた外に放す気にもなれない。 「はあ……」  それと、仕事のことも考えなければならなかった。  元彼――数時間前にぶっ飛ばした真城(ましろ)くんは、同じ会社の先輩だ。彼は最低な人だけれど仕事は出来る。こんなことがあってもきっと彼は仕事を辞めないだろうし、私は出来るだけ彼の面を見たくない。 「転職、するかあ……」  猫の頭を撫でながら呟いた言葉は、静寂に呑み込まれる。  散々外で飲みちらしていた私も、気が抜けて声と共に静寂へと呑み込まれた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!