はじまりの日

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 私は、自分のメモを基に、その彼に、今回の数学の試験の範囲を説明した。 「ここは、今回の試験範囲の中で、一番大事な公式だから。たぶんだけど、絶対にこの公式を使って解く問題は、試験に出る」 「なるほど、分かった」  教えていると、案外、素直な人で、分からないことは質問もしてきて、教え甲斐のある人だった。試験範囲の重要な箇所を一通り、説明し終えたところで、彼は、教室の時計に目をやり、そそくさと立ち上がった。 「そろそろ、先生や他のやつらも続々と登校してくるだろうし、終わろうぜ。」 「あ、うん。ちょうど、キリも良いしね。」 「じゃあ、明日からもよろしく!」 「えっ?明日からも?」 「さっき、俺に勉強教えてと頼んだじゃん。」 「それは、今日のこの数学ってことじゃなくて?」 「いつ、今日だけって言ったんだよ! さすがに、今日みたいな毎朝五時はキツいから、六時集合で、よろしく!」 「いやいや、ちょっと、待ってよ」 「あー、場所は、またここでいいよな! じゃあな! また明日!」  そう言って、彼は、一方的に、時間と場所を決めて、物理教室から出て行ってしまった。  一人教室に取り残された私は、呆然と立ち尽くした。  ーーこれから、毎日、私は、あの彼と一緒に勉強するってことだよね……  突然決まったことを受け入れることができず、私は、しばらく、教室に佇んでいた。誰もいない教室は、時計の秒針が鳴り響く。その秒針の音をBGMに、初めてこの教室の扉を開いた時に、目にした美しい彼の姿を思い出していた。 ーーってか、あの人、誰だ?  今更ながら、私は、あの美しい人の名前すら知らないことに気づき、我に返った。名前もわからなければ、何組の生徒なのか、彼の情報は、何一つ持っていないことに気づく。 ーーダメだ。とりあえず、今は、このあとの試験に集中しよ。 そして、私は、自分のクラスの教室に向かうため、物理教室をあとにした。
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