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安心しきっていた私は、物理教室の扉を思いっきり開けた。
そこに、彼はいた。
その美しい人は、登り始めた朝日の光を、まるで、優しい色のスポットライトのように浴びながら、物憂げな表情で、佇んでいた。映画のワンシーンを切り取ったように、絵になる光景で、私は静かに息を呑んでしまった。
彼は、物理教室の机の上に座り、オレンジにかぶりつきながら、教室の窓から校庭を眺めていた。眼鏡をかけていて、なおかつ重めの前髪に覆われているので目元がほぼ隠れそうだが、横顔だけでも目鼻立ちがハッキリとして美しい顔立ちをしているのが分かる。
「あ、えっ、だっ、だ、誰ですかっ?」
私は、ほんの数秒見惚れたあとに、我にかえって、その美しい彼の後ろ姿に問いかけた。
「お前こそ、誰だよ」
その彼は、怪訝そうに、私の方に、一瞬だけ目をやり、すぐ窓の景色に視線を戻しながら、低い声で聞いてきた。そして、すぐに何かを思いしたように、話し始めた。
「ん? あー、さっき、自転車置き場から必死に早歩きしてた人か!」
彼は、ニヤニヤと面白そうに、私の方を向きながら言った。
「もっ、もしかして、あなたが、私のこと追いかけてたの?」
「追いかけてないし! 俺も校舎の方に向かって、歩いてたら、そっちが、勝手に何を勘違いしてんのか、急ぎ足でズンズン進んでたんだろ」
「いや、誰かが追いかけてくるような気配を感じだから、怖くて……。普段、こんな時間に学校来たことなかったし」
「へー、そうなんだ。まあ、今、朝の五時過ぎたところだもんな。で、何しに来たの?」
「それが、ちょっと忘れ物をしちゃって、それを探しに……」
私は、肝心のメモを探そうと、昨日の授業で、自分が座っていた机のあたりを探した。
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