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「その忘れ物って、もしかして、これ?」
彼は、手でルーズリーフをヒラヒラと持ちながら、聞いてきた。
私は、彼に近づき、彼が手にしているルーズリーフを覗き込んだ。彼が、持っていたのは、紛れもなく、私が探していた、私の大事な数学の要点メモだった。
私が、ルーズリーフに手を伸ばすと、彼は、急いで、手を挙げて、私に取れない高さまでルーズリーフを掲げた。私は、取り返そうと必死に手を伸ばした。
「え、ちょっと! それ私の大事なメモなの。返してよ!」
「すげーな。これ、めっちゃ、分かりやすい!全部、自分でまとめてんの?」
「えっ、見たの?」
「たまたま、この教室の前の廊下歩いてたら、落ちてたから。何かと思って、今、見てたとこ。」
「拾ってくれて、ありがとう。授業しっかり聞いてたら、先生が大事なところ何度も教えてくれてるから、それをまとめてるだけだよ。」
「勉強できるんだな」
「どうかな……。私は、ただただ真面目に生きてるだけ……」
「へぇ、そうなんだ。まあ、ちょうどいいや!」
「ちょうど良い? 何が? さぁ、いいから、返してよ!私、今から、それで数学の試験勉強したいの」
「拾ってやったお礼にさ、俺に勉強教えてくんない?」
「はい??」
「いいじゃん、よろしく! どうせ、今から試験勉強するつもりだったんだろ」
「私は、一人で勉強したいの」
「じゃあ、このメモは俺のものだな」
「いや、意味わかんないから。私が書いたメモなんだから」
「拾ったのは、俺。だから、今は、俺のもの。俺がどうしようと勝手だろ」
「はぁ……もう、分かったよ……」
半ば、彼の強引さに押し切られるように、私は、彼に勉強を教えることにした。押し問答してる時間も勿体無いし、とりあえず、メモが見つかったのだから。人に教えることで、自分の理解度も分かると聞いたこともあると、私は、自分自身を納得させ、本当に軽い気持ちで引き受けていた。
この時の私は、これが、毎日勉強を教えるという意味だったとは、思っていなかった。そして、この日を境に、私の高校生活は、今までのただただ普通の生活とは変わることになるのであった。
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