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女が男の手を引いて、駆け出さんばかりに花畑の中を進む。
「ああ、行こう。ちょっと待て。みんないるってことは、お義父さんもここに来てるんだよな? ……ああ、それは嫌だなぁ」
彼は義父と犬猿の仲だった。彼の魂にそう書いてあったのを、私が見た。
「あっ、お父さんはいないの。地獄に行ったらしいわ」
女が言った。
「えっ?」
「何をやらかしたのか知らないけど、地獄に堕とされるような人間だったの。だからここにお父さんはいないわ」
「本当か?」
男はキラキラと目を輝かせた。あの忌まわしい義父はいなく、妻と母の仲は睦まじい。これは彼が生前望んでいた展開だった。
「本当よ。あっ、あそこにいるのは、あなたの親友の山田さんよ。おーい! 山田さーん!」
女が手を振って叫ぶと、山田と呼ばれた男も気が付いたらしく、二人の方へ近づいてきた。
「おっ鈴木、お前もやっと来たのか」
山田が男の方を見て言った。
「ああ。今日から天国入りだ。なんだか俺は、すごくいい気分だよ」
「そりゃそうだよ。これからはひたすら楽しい日々が待ってるよ。ここでは毎日が幸せで、嫌なことなんて起きないんだから」
「本当にその通り。あ、そうだわ。これからお義母さんのところに行くんだけど、山田さんも行きましょうよ。みんな一緒になってお祝いしましょうよ」
「いいね、それは」
山田と男が同時にそう言った。
「行こう行こう。みんなで騒ごう」
三人は手を取り合って、いい香りのする道を、スキップするような足取りで、歩いていった。
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