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今日案内した鈴木さん——その妻の真由は、眠りを選ばずに夫が来るのを待つ、と言っていた。
真由は、本物の夫でないと嫌だ、という結論を出して、今日まで彼を待ち続けていたのだ。
しかし鈴木さんは——自分の母親と真由が険悪そうにしているのを見て、失望したような表情になった。そこに義父が加わって、完全に気分が落ちてしまった。
「架空の世界を選ぶ」
鈴木さんはそう言った。
本当にそれでいいのか、と食い下がる私に、彼は「早くしてくれ」と懇願した。
さっきまで覗いていた彼の夢を思い出す。
自分にとって都合の悪い事実が改変され、嫌いな人物が排除された世界——確かにそれは楽園に違いない。
幸せは人によって違う。ならば全員が幸福になる方法は、各々が思い描く理想郷に閉じ込もる他ないのではないか。
急ごしらえの避難所のように、一列に寝かせられた死者たちを見渡す。
皆、その心は満ち足りているはずだ。
これこそが『天国』の正しいあり方なのかもしれない。
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