12人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
地獄編
それから少し経って、私は地獄の様子を見に行くことにした。
地獄は、現世の人々が想像するような血みどろの光景は広がっていない。草花がまったく生えていない無味乾燥な場所だ。つまるところ、天国と何も変わらない景色。
地獄でも、死者がズラッと並べられてる部屋がいくつもある。天国と違うのは、夢を見ることが強制なところだ。
地獄に堕とされた罪人たちは、罰として悪夢を見させられる。そして、自分の意思では絶対に悪夢から逃れられない。
罪の重さによって、夢の内容が異なったり、夢の世界に囚われる期間が長くなったりする。
皆なかなか凄惨な夢を見ている。
天国の時と同じように魂を解析して、その人にとって最も恐ろしい内容の夢を見せるのだ。
関所恐怖症の罪人には、押し入れに閉じ込められて飢え死にする夢を。
虫嫌いの罪人には、巨大な虫たちに囲まれ弄ばれながら一生を送る夢を。
そういえば、子供の頃のトラウマをひたすら繰り返す夢は、定番だ。悪人たちも幼い頃は、人並みに繊細な心を持っていたらしい。
足元の罪人たちを見下ろす。
苦悶の表情はなく、穏やかに眠っている。天国の死者たちも幸福な夢を見ているのに、それが表に現れることはない。
皆、それぞれの世界に入っている。
なので『天国と地獄』にそれほど違いはないのだ。
死者が見る夢が、幸福か不幸か。
それしかない。他に語るべき差異なんてない。
『あの世』とはこういう場所だ。
最初のコメントを投稿しよう!