逃亡者

1/1
前へ
/7ページ
次へ

逃亡者

漫喫が見えてきた。車はその店の前に停めた。 「俺は表から、レイナは裏からだ。今回は爆弾の出番はねえ。いいな?」 「つまんなーい」 「動くな!」 いきなりそう声がした。見ると漫喫からひとりの男と、それに抱えられ一匹の猫が出てきた。猫には包丁が突きつけられている。 「てめえ!猫になにするんだ!」 「うるせえ!そこをどけ」 こいつ、猫を盾にするとは、なんという凶悪なやつなんだ! 「ちっきしょう、見張っていりゃやっぱ来やがった。いいか、ぼくは悪くない。悪くないんだ!」 やはり見張られていた?うかつだった。責任はレイナだな。化粧が濃いから。 「猫に包丁突きつけてるだけでもうそりゃ終身刑確定だぞ!悪けりゃ死刑だ。情状酌量はない。犬なら軽犯罪法違反くらいだったのに。なんで犬にしなかったんだ?」 俺は感情を押さえて冷静に説得しようと試みた。 「犬は好かん。まるで編集者だ。編集長にはしっぽを振って、漫画家が女だとよだれをたらす。ウンコは臭い。関係ないけど」 「いろいろな意味でヤバい発言だ」 「ぼくは猫が好きだ。こいつはヤス丸という。休まらないぼくの気持ちを唯一癒してくれた」 そこら辺は共感できるけど、やはり犯罪は犯罪だ。しかも凶悪犯だ。裁判所は生け捕りを命じているが、もう俺のマグナムでアタマ吹っ飛ばすしかないな。 「いいからどけ!その車をいただく。ぼくはそれで逃げる。追って来るなよ!」 「ジョー、こいつ殺す?いまならできるわよ」 「よせレイナ。万が一にでも猫に危害が及ぶなら、それは賢い選択じゃない」 漫画家の男はビビりながらも車のドアを開け、運転席にもぐりこんだ。 「おまえらなんかに捕まるもんか!」 そう言って漫画家は猫を放り出し、車を発進させた。犯した犯罪は憎むべきものだったが、最後にあいつは救われた。そう俺は思った。俺は猫を拾い上げ、こいつは魚が好きか肉が好きか、ちょっとうふふな気持ちでいっぱいになった。 逃亡したやつ?まあそれは何とかなるだろう。 e935996c-b32f-4638-9736-d0d391b1fc07
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加