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逃亡者
漫喫が見えてきた。車はその店の前に停めた。
「俺は表から、レイナは裏からだ。今回は爆弾の出番はねえ。いいな?」
「つまんなーい」
「動くな!」
いきなりそう声がした。見ると漫喫からひとりの男と、それに抱えられ一匹の猫が出てきた。猫には包丁が突きつけられている。
「てめえ!猫になにするんだ!」
「うるせえ!そこをどけ」
こいつ、猫を盾にするとは、なんという凶悪なやつなんだ!
「ちっきしょう、見張っていりゃやっぱ来やがった。いいか、ぼくは悪くない。悪くないんだ!」
やはり見張られていた?うかつだった。責任はレイナだな。化粧が濃いから。
「猫に包丁突きつけてるだけでもうそりゃ終身刑確定だぞ!悪けりゃ死刑だ。情状酌量はない。犬なら軽犯罪法違反くらいだったのに。なんで犬にしなかったんだ?」
俺は感情を押さえて冷静に説得しようと試みた。
「犬は好かん。まるで編集者だ。編集長にはしっぽを振って、漫画家が女だとよだれをたらす。ウンコは臭い。関係ないけど」
「いろいろな意味でヤバい発言だ」
「ぼくは猫が好きだ。こいつはヤス丸という。休まらないぼくの気持ちを唯一癒してくれた」
そこら辺は共感できるけど、やはり犯罪は犯罪だ。しかも凶悪犯だ。裁判所は生け捕りを命じているが、もう俺のマグナムでアタマ吹っ飛ばすしかないな。
「いいからどけ!その車をいただく。ぼくはそれで逃げる。追って来るなよ!」
「ジョー、こいつ殺す?いまならできるわよ」
「よせレイナ。万が一にでも猫に危害が及ぶなら、それは賢い選択じゃない」
漫画家の男はビビりながらも車のドアを開け、運転席にもぐりこんだ。
「おまえらなんかに捕まるもんか!」
そう言って漫画家は猫を放り出し、車を発進させた。犯した犯罪は憎むべきものだったが、最後にあいつは救われた。そう俺は思った。俺は猫を拾い上げ、こいつは魚が好きか肉が好きか、ちょっとうふふな気持ちでいっぱいになった。
逃亡したやつ?まあそれは何とかなるだろう。
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