赤いドレスの女

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「弁当をきっかけに、私達は少しずつ仲良くなっていき、私は母さんとの結婚を考えるようになった。 でも、当時の母さんには、結婚なんて毛頭考えられないようだった。」 「借金のせいなのね?」 父さんは頷いた。 「私は母さん以外の人と結婚する気はなかったから、仕方なく待ったんだ。 母さんがその気になってくれる日を…」 今日は意外な話ばかりだ。 二人の馴れ初めなんて聞いたことはなかったけれど、なんとなく、母さんが父さんのことを好きになったんじゃないかって思ってた。 だけど、それは逆だったみたいだ。 「何年か経って借金もどうにか返す目途が付いて来た頃、私はまた結婚を申し入れた。 母さんは迷っていたみたいだったがご両親が結婚することをすすめてくれてな。 それで、ようやく母さんもうんと言ってくれたんだ。 後で思ったんだが、母さんは私に迷惑をかけたくなかったから、なかなか結婚してくれなかったんじゃないかってな。 母さんはそういう人だからな。」 そう言って父さんは、笑みを浮かべた。 どこか寂しそうな微笑みを。 「これからは私も母さんと一緒に残りの借金を返して、そして母さんを幸せにしてやりたいと思ってた。 ところが、皮肉なものでな…ようやく借金を払い終えようかという頃に、今度は私が事故にあったんだ…」 「父さんが事故に!?」 「あぁ、それも轢き逃げだ。 幸いにも命に別状はなかったが、犯人はとうとうみつからなかった。 私は、母さんを幸せにするどころか、却って、迷惑をかけてしまったんだ。 私が働けない間、母さんは働きながら私の世話をしてくれてな。 あの時は本当に申し訳なくて、死にたくなったよ。」 父さんはしみじみとそう言った。 だけど…それが私にはまだピンと来ない。 だって、私は、それほど困窮した生活をした覚えはないから。 お金持ちとは言わないまでも、中流の生活を送って来たと思う。 家も、豪邸とはいえないものの一軒家の持ち家だし、私も大学まで出してもらったし、特に惨めな想いをしたことはなかった。
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