赤いドレスの女

11/15
前へ
/15ページ
次へ
「私…うちがそんなに困ってたなんて知らなかった…」 父さんは、私の顔を見てフフッと笑った。 「おまえが生まれた頃には、私の体も治っていた。 だから、母さんもその頃からは仕事もやめて、家事に専念してくれた。 おまえが生まれてからは、本当に何もかもが順調に進んだよ。 言ってみれば、おまえは福の神みたいなものだな。」 その時、私は母の言葉を思い出した。 私が生まれた時、父さんが『福子』って名前を、そして、母さんが『理恵子』って名前を考えて、結局、じゃんけんで『理恵子』に決まったって… 福子はきっと福の神から考えたんだろう。 ストレートな父さんらしいけど…母さんがじゃんけんに勝ってくれて本当に良かったと思った。 「そういえば、私より母さんの方が福の神って感じしない? ぽっちゃりしてて、にこやかで…」 「確かにそうだな。」 でも、病気がみつかってから、母さんはみるみるうちに痩せていった。 ただ…それでも、母さんは弱音を吐くことは一度もなかった。 お見舞いに行くと、いつも笑顔で出迎えてくれて… (あ……) そうだ… あの時、何か食べたいものでもないかなって思って、母さんに聞いたんだ。 「何かほしいものない?」って。 そしたら、母さんは少し考えて… 「赤いドレスが欲しいわ。」って答えたんだよね。 あの時は、考えてもなかった答えが返って来たから、すごくびっくりしたよ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加