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私は、母さんのそんな願いを本気にはしなかった。
だって、入院して外出さえままならない母さんが服を欲しがる…しかも、ドレスだなんて…
きっと、母さんの冗談なんだと思ってた。
「ねぇ、お父さん…良いかしら?
私、ドレスが欲しいの。」
母さんはさらに言葉を重ねた。
病室にいた父さんは、意外にもそんな言葉を真に受けて…
「よし、わかった。
遠慮はいらないぞ。
おまえの希望通りのドレスを作ろう!」
私は、二人の会話を聞きながら、ただ戸惑うだけだった。
だけど、その日の帰り、父さんに仕立て屋さんを探すように言われて、父さんが本気だということを知った。
仕立て屋さんに事情を話して、病室までサイズを測りに来てもらったり、生地のサンプルを見せてもらって…
そんな中、母さんはドレスのデザインも自分でしたいと言い出した。
スケッチブックにデザインを描く母さんはとても楽しそうだった。
完成したデザインは、母さんの年代にはそぐわない若いデザインで…母さんの選んだ生地は、光沢があり、目の覚めるような鮮やかな赤だった。
なぜ、そんなものを母さんが欲しがるのか、私にはまるでわからなかった。
服が欲しいのなら、もっと今の母さんに似合ったものにすれば良いのに…
私はそう思ったのだけど、父さんは何も言わなかった。
母さんの言うことをすべて、うんうんと聞き入れて…
そして、出来上がったものは、母さんにはまるで似合いそうにない…まるで、パーティにでも着ていくような派手なドレスだった。
そんなものに高いお金をかけるなんてどうかしてる…
私はそう思ったけれど、母さんも父さんもそのドレスにとても満足している様子で…そのことが、私には不思議でたまらなかった。
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