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それは、間違いなく母のドレスだった。
母が亡くなる少し前に、父にねだって仕立ててもらったものだ。
母が自らデザインし、生地も選んで作ったもので、母はそのドレスを世界に一着しかないものだと言って、とても気に入っていた。
そんな特別のドレスだから、私も間違えるはずがない。
気の毒なことに、病床の母がそれを着たのは、旅立ちの時だった。
母はそのドレスを着て、あの世へ旅立った。
つまり、母の肉体と共に燃え尽きたはずのドレスが、なぜ…
考えるだけでも戦慄する。
やはり、あの女性に事情を聞くべきだろうか?
聞かなければ、きっと私は落ち着けない。
そう思い、女性のところに行こうとしたまさにその時…
「理恵子、こんなところにいたの?
もっと前で撮りなさいよ!」
声を掛けて来たのは、友人のみちるだった。
「え?あ、あぁ…でも、私は…」
「早く、行きなさいってば。」
みちるに押し出されるようにして、私は前の方へ向かった。
「あやか!おめでとう!」
あやかはすぐに私に気付いて、花のような笑顔を私の方に向けてくれた。
私はその笑顔を何枚かスマホに記録した。
そして、ふと顔を上げた時…あの女性の姿は消えていた。
私は、もう一度念入りにあたりを見渡したけど、あの女性はもうどこにもいなかった。
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