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「理恵子、良かったら飲まないか?」
ある日の風呂上り、父が唐突にそんなことを口にした。
元々、寡黙だった父は、母が亡くなってからさらにもの静かになった。
仲が悪いというわけではないのだけど、いつの頃からか、父とはあまり話さなくなった。
母がいなくなってからは、ふたりっきりというのが気詰まりで、以前にも増して話すことは少なくなった。
食事をする時に、雨が続いて鬱陶しいだの、どうでも良いような会話を申し訳程度にするだけだ。
今までほとんど飲まなかったお酒を、父は最近たまに飲むようになった。
きっと、父は寂しいのだ…そう思いながらも、父を慰める術を知らない…私は親不孝な娘だ。
「……じゃ、ちょっとだけ飲もうかな…」
そんなことを言ったのは、普段から父に対して何もしてあげられないことへの罪滅ぼしのような気持ちからだったのかもしれない。
父の向かいに腰をかける。
冷蔵庫から冷たいビールを取り出し、父はそれをグラスに注いで差し出した。
「ありがとう。」
久しぶりに飲んだビールは、喉を激しく刺激する。
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