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「そういう奴のひとりやふたりは、どこにでもいるもんだ。」
「またそんないいかげんなことを言う。
父さんは、田辺さんを知らないからそんなことが言えるのよ。」
少ししか飲んでいないのに、私はどうやら酔っぱらっているようだ。
普段は話すことのない、職場の愚痴を父にこぼしていた。
「おまえもあやかちゃんを見習って、早く嫁に行くんだな。
そしたら、そんな嫌な上司の下で働くこともない。」
「今は、結婚しても働くのが普通なの!
あやかだって、仕事はやめないんだから…」
「そうなのか。」
お酒が入ってるせいか、父も私もいつもより良くしゃべっていた。
「あ、そういえば…
母さんの赤いドレス…あれってオーダーメイドだよね?」
「……ああ、そうだ。」
「母さんがデザインをして、母さんのサイズに合わせて作ったんだよね?」
「……どうしたんだ、今更そんなことを訊くなんて。
あのドレスは、母さんに着せたから、今はもうないぞ。」
「そうよね?
あのドレスは世界にたった一着のドレスだって、母さん自慢してたし、そのドレスを着て焼いたんだもの。
もうあのドレスはこの世のどこにもあるはずないよね?」
「……当たり前じゃないか。」
父さんは不機嫌そうにそう言って、ビールをぐびぐびと流し込んだ。
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