赤いドレスの女

6/15
前へ
/15ページ
次へ
* 「そういう奴のひとりやふたりは、どこにでもいるもんだ。」 「またそんないいかげんなことを言う。 父さんは、田辺さんを知らないからそんなことが言えるのよ。」 少ししか飲んでいないのに、私はどうやら酔っぱらっているようだ。 普段は話すことのない、職場の愚痴を父にこぼしていた。 「おまえもあやかちゃんを見習って、早く嫁に行くんだな。 そしたら、そんな嫌な上司の下で働くこともない。」 「今は、結婚しても働くのが普通なの! あやかだって、仕事はやめないんだから…」 「そうなのか。」 お酒が入ってるせいか、父も私もいつもより良くしゃべっていた。 「あ、そういえば… 母さんの赤いドレス…あれってオーダーメイドだよね?」 「……ああ、そうだ。」 「母さんがデザインをして、母さんのサイズに合わせて作ったんだよね?」 「……どうしたんだ、今更そんなことを訊くなんて。 あのドレスは、母さんに着せたから、今はもうないぞ。」 「そうよね? あのドレスは世界にたった一着のドレスだって、母さん自慢してたし、そのドレスを着て焼いたんだもの。 もうあのドレスはこの世のどこにもあるはずないよね?」 「……当たり前じゃないか。」 父さんは不機嫌そうにそう言って、ビールをぐびぐびと流し込んだ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加