赤いドレスの女

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「父さん…どういうこと?」 「母さんは、苦労ばっかりしてきたからな…」 「え?」 それもまた意外な言葉だった。 母さんは、いつも朗らかで、のんきな人だった。 亡くなる時だって、最期の時まで微笑んでいたくらいだ。 そもそも、母さんから、苦労した話なんて一度も聞いたことがない。 「母さんが、どんな苦労をしたっていうの?」 「おまえは知らないよな。 母さんはそういう話はしなかったからな…」 「だから、どんな苦労をしたのよ?」 父さんは、グラスを持ち、喉を鳴らしてビールをぐびっと口にした。 「……なんでも、母さんの両親…おまえの祖父母だが、知り合いの連帯保証人になったらしくてな。 その人が夜逃げして、借金は母さん一家にのしかかった。 それから、母さん達の生活は一変した。 なんとか高校だけは卒業したらしいが、高校に通う間も、ずっとバイトしていたらしいぞ。」 「母さんにそんなことが…」 確かに、そんな話、ひとことも聞いたことがなかった。 でも、どうして、母さんは話してくれなかったんだろう?
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