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「それからどうなったの?」
「私の働いていた会社に、母さんが事務員として入って来た。
つまり、その会社で私達は出会ったんだ。
なんでも、前に働いてた会社が潰れたとかでな。
母さんは、本当に真面目で良く働いていたよ。
聞いた話によると、会社が休みの日も働いていたようだ。」
父さんは昔を思い出すかのようにしみじみと話した。
「母さんはいつもひとりで弁当を食べていてね。
そのことが私は妙に気にかかり、ある時、一緒に昼食を食べに行かないか?って誘ったんだ。」
「それで…母さんはなんて?」
「あっさり断られたよ。そんなお金はありませんって。
私はもちろん奢るつもりだったけど、それでも断られ、母さんは私に弁当を見せてくれた。
真ん中に梅干しが一つ入っただけの日の丸弁当だった。
うちは今こういう経済状態なんです…って。
でも、それは一生続くわけじゃない。
早く今の状態から抜け出すためにも、今は贅沢は出来ないんです…ってね。
それを聞いた時、私は思った。
この人はすごく正直で真面目な人だなって。」
確かに、そんなことを話すのは恥ずかしかっただろうって思う。
だからこそ、母さんはいつも一人でお弁当を食べてたんだろう。
お弁当を他の人に見られたくなくて…
「その日以来、なんだか母さんのことが余計に気になるようになった。
だから、その次の日からは私も弁当にして、一緒に食べようと誘った。
多めにおかずを持って行って、母さんにも食べてもらったんだ。」
「そうなんだ…」
父さんのコイバナを聞くのはなんだか照れくさかったけど…当の本人は平然と話してる。
それが、とても不思議な気がした。
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