思いがけない言葉

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思いがけない言葉

「私ね、ずっと…ずっとね、3人で居ることが幸せだと思ってたんだ。」  朋美の言葉が一瞬理解できなかった。 (思っていた?何故過去形なんだ) 「どうした、俺たちはずっと一緒だろ?今までも、これからも。」  不安で胸がざわつくのがわかる。  自分がおかしいくらいに明るい声でそういった事で理解した。  俺はこの先の言葉を聞くのが怖いのだと。  3人が離ればなれになるかもしれないという不安を感じていると。 「私ね、明博に告白された…。幼馴染と思っていたけど、高校に入って女らしくなったお前を見ていたら、幼馴染と思って過ごすことは出来ないって。」  不意に朋美は足を止めた。ゆっくりと俺の方に振り返る。 「あ…、え…。明博が…告白?」  完全に予想外の言葉を聞いて、俺は軽くパニックを起こしていた。  朋美はモテる。確かにきれいになった。  だから誰かから告白されて、そいつとの時間を作るために俺たちから離れる。  そういう想像をしたことはあった。  いつかそういう日が来るかもしれないと、漠然と思ったことも。  だが…明博がその相手になるとは予想外だった。  俺たちはいつまでも、親友より固い絆を持っていると思っていたから。  ずっと3人でという誓いを立てた張本人が、誓いを破ると思っていなかったから。 「…ね、慶介。どう思う?」  静かな声。 「どうって…お前は、明博が好きなのか…。もし明博と付き合うなら…3人ではいられないのか…。」  俺は情けない声でそう答えた。いや答えではない、縋る言葉を投げかけただけ。 「私ね…断ったの。明博から告白されて、初めて自分の本心に気づいたから。ううん、気づいた…とは違うわね。押さえきれなくなった…かも」 「朋美の…本心?」 「…だからね、多分、もう3人ではいられないと思う…誰の願いを叶えても、3人では…いられないんだと思う。」  言葉に詰まった。  そんな事はありえないと知りつつ、それでもこの「安心できる3人」の関係に浸って、それがずっと続くと思っていた俺は、誰の気持を優先しても3人でいられないという朋美の言葉に、何も言い返せなかった。 「………‥わたし、ね。本当は…‥‥。」  言いかけて、その先を続けられず、沈黙。  俺は朋美の次の言葉を待つしか無かった。俺たち3人の関係を断ち切るであろう、断罪の言葉を。 「…けの事が…きだった。」 「え?」  あまりにも小さく、弱々しい声。  俺はそれを聞き取ることが出来ず間抜けな言葉を返してしまった。 「中学の頃から‥。け、慶介のこと好きだったの!」 「……‥!」  全く予想していなかった言葉が、朋美の口から溢れ出す。  俺は絶句するしか無かった。本当に一度も考えたことがなかったからだ。 「ううん…それは嘘…ハッキリと認識したのは中学だけど…思えば初めからだったかもしれない…私は、慶介を…ずっと、ずっと、特別に思っていた…。」 「え、そんな、朋美…冗談だよな?お前が俺のことをなんて…。」 「嘘じゃない!!!!!」  動揺した俺が発した不用意な言葉に、それまで見たことがないほどの剣幕で否定する朋美。彼女の何処にこれほどの激情が隠れていたのかと思うほどの声音。 「酷い…酷いよ…康介。私が嘘や冗談で、こういう事…いうと…ひぐっ…お、思う・・の?そんなの、酷いよぉ…うぅ…。」  突然、大粒の涙が朋美の頬を流れた。  夕日に照らされてキラキラと輝きながら、朋美の頬を滑り落ちるソレは、不謹慎かもしれないが、悲しいほどに美しかった。  なにか言葉をかけようとする俺を、朋美が真正面から見つめてくる。  少し茶色がかった朋美の瞳が、俺の視線を真正面から受け止める。  涙で揺らめく朋美の瞳は、息を呑むほどに美しいと思った。 (抱きしめたい)  不意にそう思った。その細くしなやかな体を抱きしめて、その柔らかな髪をなで、今すぐにでも涙を止めたい、そう思ってしまった。 「ごめん…俺、お前から言われて、お前を泣かせて、それでようやく気づいた。」  朋美の体を抱き寄せる。壊さないようにそっと。 「仲良し3人でずっといる…そう思いこんで、自分の気持を見ないふりしていた。気持に蓋をしすぎて、本当に気がついていなかった。」  不意に抱きしめられて驚いた朋美は、一瞬俺の腕の中から逃れようとした。  告白の返事もされず、あまつさえ冗談だろうと言ってきた相手に抱きしめられるのは、朋美の観念からすればありえないことなのだろう。必死に逃れようとする。 「今わかった。おまえの、朋美の言葉を聞いて、ようやく俺はわかったんだ。」  俺の言葉が熱を帯びる、そこに至ってようやく朋美も俺の気持に気がついたのか、抵抗しようとする素振りがおさまった。 「俺も…お前が…。ずっと隣りにいてくれた冬坂朋美が、好きです。これからも一緒にいたい…です。離れたく…ない…。」
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