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第2話
「ごめんなさい、友達と待ち合わせしているのでチョット…」
「えぇ、その友達って男?女の子なら一緒に遊べばいいじゃん♪」
「俺たち丁度、ヒマしてるしぃ友達も合流して一緒に遊ぼうよ」
「どうしても今日が駄目だってんなら、連絡先教えてよ。SNS何やってる?」
飢えた肉食獣の群れに、特上の肉を投げ入れたようなものだ。
小手先の言い訳を駆使しても、その肉を手放さなそうとはしないだろう。
僕は喧嘩なんてしたことはないし、力も体力も人並みかそれ以下だろう。
彼女の周りの人間のように、迷惑そうな視線を向けて遠巻きにしていても誰も
文句をいうことはないだろう。いつもと同じようにその他大勢と同じく傍観者に
なれば良い。正直そう思った。
でも見てしまったんだ。トウカの体が震えているのを。
見えてしまったんだ、その黒曜石の瞳が、恐怖で揺れているのを。
「遠藤董香は男嫌い」
そういう噂も聞いたことが有る。過去にしつこく言い寄られて、それから男性が
苦手になったのだとか言う噂。それが事実かどうかわからないけど、でも女性一人が
男性3人に囲まれて、逃げ道も塞がれていると言うのは、男嫌いどうこうより、怖さ
を感じてしまうことは、僕にでも簡単に予想できる。
僕は大きく深呼吸をして、覚悟を決めると、わざと大きく明るい声で言った。
「ごめん、遠藤!電車の乗り継ぎに失敗してチョット遅刻しちゃった。」
声が震えない事に必死になる。嘘くさく聞こえないように注意を払う。
怯えた視線を悟られないよう、頬が引きつらないように、全神経を集中させる。
「教授が駅で待ってるよ、そろそろ点呼も始まるし、初めてのフィールドワークで遅刻するわけにもいかないし、早く行こう。」
トウカの顔に、一瞬だけ疑問が浮かび上がり、数瞬で助けようとしていることを悟ったのか恐怖の色が薄れて、そしていつもの-というには若干無理があったが-微笑が浮かぶ。
「あ…御堂くん、もうそんな時間だったんだね。じゃあ急がないと…」
「そうだね、あの教授、時間には口うるさいから急ごう」
僕は3人が口を挟む間もないくらいにまくし立てて、心のなかでゴメンと言いながら
トウカの手を取り歩き出す。もちろん普段より早足だ。
トウカは、ヒールのあるパンプスを履いているから、早足になりすぎてもいけない。
「あ…ちょっ!」
背中から3人組の声が聞こえるが、聞こえないふりをして、夢中で足を動かす。
繋いだ手に少し抵抗があったから、もしかしたらトウカのペースより幾分早かったのかもしれない。でも僕は追いつかれる恐怖から、速度を緩めることが出来なかった。
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