第2話

1/1
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

第2話

「ごめんなさい、友達と待ち合わせしているのでチョット…」 「えぇ、その友達って男?女の子なら一緒に遊べばいいじゃん♪」 「俺たち丁度、ヒマしてるしぃ友達も合流して一緒に遊ぼうよ」 「どうしても今日が駄目だってんなら、連絡先教えてよ。SNS何やってる?」 飢えた肉食獣の群れに、特上の肉を投げ入れたようなものだ。 小手先の言い訳を駆使しても、その肉を手放さなそうとはしないだろう。 僕は喧嘩なんてしたことはないし、力も体力も人並みかそれ以下だろう。 彼女の周りの人間のように、迷惑そうな視線を向けて遠巻きにしていても誰も 文句をいうことはないだろう。いつもと同じようにその他大勢と同じく傍観者に なれば良い。正直そう思った。 でも見てしまったんだ。トウカの体が震えているのを。 見えてしまったんだ、その黒曜石の瞳が、恐怖で揺れているのを。 「遠藤董香は男嫌い」 そういう噂も聞いたことが有る。過去にしつこく言い寄られて、それから男性が 苦手になったのだとか言う噂。それが事実かどうかわからないけど、でも女性一人が 男性3人に囲まれて、逃げ道も塞がれていると言うのは、男嫌いどうこうより、怖さ を感じてしまうことは、僕にでも簡単に予想できる。 僕は大きく深呼吸をして、覚悟を決めると、わざと大きく明るい声で言った。 「ごめん、遠藤!電車の乗り継ぎに失敗してチョット遅刻しちゃった。」 声が震えない事に必死になる。嘘くさく聞こえないように注意を払う。 怯えた視線を悟られないよう、頬が引きつらないように、全神経を集中させる。 「教授が駅で待ってるよ、そろそろ点呼も始まるし、初めてのフィールドワークで遅刻するわけにもいかないし、早く行こう。」 トウカの顔に、一瞬だけ疑問が浮かび上がり、数瞬で助けようとしていることを悟ったのか恐怖の色が薄れて、そしていつもの-というには若干無理があったが-微笑が浮かぶ。 「あ…御堂くん、もうそんな時間だったんだね。じゃあ急がないと…」 「そうだね、あの教授、時間には口うるさいから急ごう」 僕は3人が口を挟む間もないくらいにまくし立てて、心のなかでゴメンと言いながら トウカの手を取り歩き出す。もちろん普段より早足だ。 トウカは、ヒールのあるパンプスを履いているから、早足になりすぎてもいけない。 「あ…ちょっ!」 背中から3人組の声が聞こえるが、聞こえないふりをして、夢中で足を動かす。 繋いだ手に少し抵抗があったから、もしかしたらトウカのペースより幾分早かったのかもしれない。でも僕は追いつかれる恐怖から、速度を緩めることが出来なかった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!