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せっかく同じ学校になったんだから
「蒼に付き合ってって言われたんだけどさ」
「蒼に?」
「これってさ、どうなんだろう?」
スバルに思い切って聞いてみる。私じゃ、どう考えても答えが出せそうにない問題を突きつけられてしまったような気持だったから。
そもそも幼馴染の蒼から「付き合いたい」と告られたのは、昨日の学校からの帰り道。いつもは三人で帰るのに、スバルが最近できた彼女に強奪されてしまったせいだ。スバルがいつも通り、一緒にいてくれたら、こんな面倒なことにはなってなかったのに。
あれ?今、私面倒なことって言った?普通、告られたら、嬉しいもんじゃないのかな。
そんなことを考えながら、私は屋上まで続く外階段の踊り場の手すりから、自分の腕に顔を埋めるようにして校庭を見下ろしていた。
「俺をわざわざ呼び出すから何かと思えば、告られ自慢?」
「自慢なんかしてないし。じゃあ私が呼びだしたの、何だと思ってたわけ?」「別に」
「えっ、もしかして・・・」
「何だよ?」
「私がスバルに告るかとでも思った?」
スバルが一瞬、俯いて沈黙した。
「普通、そう思うだろ?二人だけで話したいことがあるとか、思わせぶりなこと言われれば」
「思わせぶりって何?私がスバルにとか、あり得ないんですけど」
「あり得ないんだ?」
なんか今度はちょっと気分を害したような顔をされた。そりゃあ、これまでだって、スバルはいろんな女子から何度も告られてきたでしょうから、こういうシチュエーションをそうとらえたとしても不思議じゃないんだろうけど。
「だから、その、聞いてほしかったというか。私、どうしたらいいと思う?これ、マジで真剣モードの相談なんだけど」
誰かに聞いてほしい。私じゃ抱えきれなくて。
「蒼が告ってきて、ハルは付き合っていいものかどうか悩んでると。それって、蒼が男として異性恋愛の対象としてハルを好きだと告白してきたのか、それとも女性として、いわゆるビアン的な対象としてハルが好きかってことで悩んでるってこと?」
「そういうこといになるかな」
相変わらず察しがいいヤツ。スバルは漢字だと澄波留と書く。フルネーム、筒香澄波留。でも私の中では、ずっと片仮名スバルなんだよね、昔から。私だって、ハルと呼ばれて長いし。私のフルネームは桜沢遥香。スバル、私の苗字、ちゃんと覚えてるかな?って思うくらい、長いこと「ハル」以外で呼ばれた覚えがない。ただ、蒼だけは、呼び方も漢字のイメージもしっくりきている。榊蒼。苗字も名前も漢字一文字。とってもシンプル。スバルが蒼にテストで名前を書く時間が短く済んでいいなって、言ってたことがあったな。勿論、中学受験の頃の話だけど。まぁ、今はどうでもいいか、そんなこと。
私ことハル、スバル、蒼は、その昔、同じ保育園に通っていた幼馴染だ。卒園後、小学校は別々だったけど、塾で久しぶりに再会し、なんなら中学、同じとこ目指さない?みたいなノリで中高一貫のここ静蘭に通学して早4年目だ。
つまり私たちはこの4月から高校1年生になっていた。
「どっちにしろ、蒼がハルのことを好きってことには変わりなくね?」
「そうなんだけどさ」
「で、付き合うの?」
「もし付き合ったら、今迄みたいにはいかないのかなぁ?私は今のままが心地いいんだけどね。私、付き合った経験ないから不安もあるしさ」
「それは知ってる」
「なんか、その言い方ムカつくんだけど。確かに経験豊富なスバルは、こんな風に思わないかもだけどね。あっ、そう言えば、昨日一緒に帰った彼女とまた別れたんだって?」
「今はその話はよくね?ハルと蒼の話だろ?」
「そうなんだけどさぁ。そもそも、付き合うとかって、なんか面倒そうじゃない?」
「まぁ、最初はお互いの出方を窺う的なこともあるからってこと?でも今回のハルの場合、相手は勝手知ったる蒼だろ?」
「確かにさ、相手がどんな人なのか、みたいな探り合いはさすがに必要ないだろうけど。なんかなぁ。ずっと一緒にいたし。今更感があるというか」
「気が乗らないわけ?でもどっちにしろ、返事しなきゃなんだろ?」
「スルーはできないよね」
「それはさすがにマズくね?」
「だよね?」
3人で同じ中学に決まった時は、私のそれまでの人生の中でもかなりミラクルに近い出来事だった。というのも、私が一人だけ、合格が危うい状態だったから。蒼もスバルも、頭、いいんだもん。二人のサポートというか、愛のムチというかもあって、辛うじて合格出来た私は、ちょっと有頂天になったくらいだった。二人と一緒に登校できるのが結構自慢でもあったし。さり気に二人とも、学校での人気ランキング、上位確定しているから。
せっかく、同じ学校に行けるようになったからと、昔みたいに三人でいられる時間をともかく作ってみたくて。というのも、そうでもしないと、私だけ二人と一緒にいられなかったからなんだけどね。私の偏差値レベルは二人と違って補欠でギリ入学できたくらいのレベル。これは、すぐにはどうしようもない。他方、2人は入学当時から特進クラスで、要は同じクラスになることは中高同じ学校に行ってたとしても、不可能に近いことがすぐに判明してしまったのだ。学校の説明会では、クラスの入れ替えもあると言ってたけど、実際はあまり移動がないらしい。だからね、入学当初、一人で登校するのは心細いから一緒に通学してと主張しまくった。そして、二人がしぶしぶ?承諾。私はそれを日常として確立させることに成功したのだ。一応、三人とも比較的ご近所だったし。だからか、同クラの子からは「どっちが本命?」なんて言われた時もあったけど。実際、どっちとも付き合ってないんだけどね。それを正直に言えば、もったいない過ぎるだの、ハルは女子としてカウントされてないからしょうがないだの、言われ放題だったけどね。
それでも私たちは緩く、長くここまでやってきたのだ。それじゃ、ダメなんだろうか?
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