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食事の後、子どもたちは再び庭へ出てサッカーを始めた。
友梨たち母親は全員で後片付けをし、それが終わると茉莉香が明らかに高級そうな紅茶を振る舞う。
見たことのないパッケージのお茶菓子がテーブルに並べられた。友梨はみんながそれを手にしたのを確認してから、菓子をつまむ。チョコレートでコーティングされたドライフルーツのようだ。
「わ、おいしい」
甘みを抑えた上品な味わいに、友梨は思わず声をあげてしまった。
「これ、真奈美ちゃんが持ってきてくれたものなんだけど、自然な甘みがくせになるよね。食品添加物も気にならないし、かえって食べ過ぎちゃいそう」
茉莉香が口元に手を当てて咀嚼する。
友梨は自分が持ってきた菓子の成分表示を必死で思い出そうとしたが、そもそも確認してもいないことに気がついた。
当然のように、その手土産はテーブルの上にはない。
「友梨さん、これも食べてみて?」
美優が示す皿のチップスを友梨はつまんで口に入れる。
「おいしい!」
歯触りの軽い噛み心地で、口の中でほんのりと甘みが広がる。これはオニオンだろうか。
「これ、ノンオイルの野菜チップスなの。少しだけ塩味を足しているけど、野菜そのものだよ。悠心くんって好き嫌いはある?」
「ひどくはないけど、ピーマンとにんじんは苦手で食べられないんだ。他にもブロッコリーとか」
「まぁ、何でも好き嫌いなく食べなきゃいけないってわけでもないけど、こういうおやつで負担なく克服できたらいいよね」
「ほんと、そうだね」
美優にこう言われると、悠心の野菜嫌いを克服させてあげたい、そんな気持ちになる。
ママ友とのランチ会が、こんなに有意義な時間を過ごせるものだったとは知らなかった。
口汚い悪口も、真相不明の噂話もない。子どもたちも仲良くサッカーに興じている。来て良かった。友梨は心からそう思った。
「そろそろ時間かな。子どもたちをお部屋に集めて」
茉莉香がキッチンへ向かう。美優と千佳が庭で遊ぶ子どもたちに声をかける。
友梨がキッチンを見ると、茉莉香は人数分のグラスを並べ、粉ミルクのような大きな缶から計量スプーンでふたさじずつ何かの粉を入れている。
何をしているんだろう。
子どもたちがわらわらと部屋へ入ってくる。
ボトルから水をグラスに注ぎ入れマドラーでかき回すと、茉莉香はそれをひとりずつに手渡した。子どもには取っ手付きのプラスチックのコップが渡される。
「はい、友梨さんも」
茉莉香に手渡されたグラスを友梨はまじまじと見る。本当に粉ミルクかと思うような、白い液体がグラスの8分目まで注がれている。
「みんな、持った? それじゃ乾杯しましょ! かんぱ~い!」
茉莉香の音頭に、美優たちが手に持ったグラスを掲げる。見ると、星凪や他の子どもたちも慣れた様子でコップを持ち上げている。
悠心もよくわからないという顔をしながらも、みんなと同じ動作をしていた。
友梨も慌ててグラスを持ち上げる。
そして、みんなが一気にグラスを傾けていくのを見て、自分もグラスに口をつける。少しざらっとした舌触りで、ほんのりと甘い。牛乳とも豆乳とも違う。強いて言うなら甘酒に似た香り。
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