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おいしくもまずくもないそれを、友梨はみなに倣って飲み干した。悠心もサッカーで喉が渇いていたのか、文句も言わずに飲み干している。
「お疲れ様~! それじゃ、次の勉強会の日時はまたグループメッセージで連絡するね。友梨さんもあとで招待しておくから」
「あ、うん、ありがとう」
ざらっとした後味を唾で飲み込みながら、友梨はうなずく。
帰り支度を終え、それぞれ挨拶をして帰って行く。
友梨が茉莉香へ今日のお礼を言おうと声をかけると、茉莉香は「ちょっと待ってて」といってキッチンへ向かい、紙袋を持ってきた。
「これ、さっき飲んだサプリメントの試供品なんだけど、よかったらもらって?」
「サプリメント?」
「そう、これね、すごいんだよ、プロテインをベースに一日に必要な栄養素が配合されてて、成長期の子どもにぴったりなの」
友梨が黙っていると、茉莉香は紙袋を友梨の手に握らせる。
「これを飲み始めてから星凪もぐんぐん背が伸びて、身体も丈夫になったの。私もお肌の調子がいいし、本当にオススメだから」
「あ、ありがとう」
「美優や真奈美たちもみんな家族で飲んでるんだって。もちろんうちも」
それから茉莉香は悠心に視線を合わせて、
「悠心くん、またおいでね。悠心くんが来てくれたら星凪も喜ぶから」
「僕も悠心くんとサッカーできて楽しかった」
そばにいた星凪が大人っぽい口調で言う。
「うん! 僕もすっごく楽しかった! また来たい!」
悠心が目を輝かせる。
「よかった! それじゃあ友梨さんも、またね」
玄関先でにこやかに手を振るふたりに見送られ、友梨は悠心を連れてマンションを出た。
帰り道を歩きながら、悠心は声を弾ませる。
「ねぇねぇお母さん、次いつ星凪くんち行く? 学校でも星凪くんと休み時間にサッカーできるかな?」
「そうだね、クラスは違うけど、入れてって言ってごらん」
「うん、今まではサッカーが上手な子しか仲間に入れなかったんだけど、今日は一緒にできたし、それにシュートしたんだよ! 僕」
友梨は庭に置かれた簡易ゴールを思い出す。
「へぇ、すごいじゃない」
「もっとサッカー上手になりたいなぁ」
こんなに積極的で楽しそうな悠心を見るのは久しぶりだ。
やっぱり、今日ランチ会に参加して良かったんだ。悠心が喜んでいるのが何よりだ。
友梨は手に持っている紙袋の感触を確かめるように握る。
──サプリメント、か。高価なんだろうな。でも……。
何もしないで一軍昇格を夢見ていた自分と、今の自分は違う。
悠心のために、できることはなんでもやりたい。それは親として当然の思いなのだ。
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