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4
遊び疲れたのか、悠心は風呂に入り夕食を食べると、ソファでうとうととし始めた。
「どうする? もう寝る?」
時刻はまだ20時前だ。
「ううん、まだテレビ観たい」
そう言いながらも目が閉じかけている。
「それじゃ、いつ寝ちゃってもいいように歯磨きだけはしておいてね」
「はぁい」
悠心は素直に洗面所へ向かう。ソファで寝てしまったら寝室へ運んであげよう。
友梨もまだ、ランチ会の高揚感が残っている。
茉莉香の華やかな笑顔を思い出す。
今まで遠く感じていた世界に、手が届く場所まで来た、そんな感じがした。
結局、夫が帰宅する前に悠心はソファで寝てしまった。友梨は悠心を抱え上げて布団へ寝かせる。
寝室から戻ると、ちょうど夫の貴之が帰宅したところだった。
「あ、おかえり。ご飯すぐ用意するね」
「うん」
貴之はコンビニに寄ってきたのか、手に持っていた白いビニール袋から缶ビールとつまみの缶詰を取り出す。
すぐにプルトップを起こし飲み始めた。
夫の貴之は、国産車の営業所でサービスエンジニアをしている。
車の整備と接客が半々の仕事で、盆と正月以外の土日はほぼフル出勤だ。
貴之がつまみの缶詰を開ける。
──またコンビニで無駄遣いして。
友梨はキッチンから夫の背中を睨んだ。ビールならスーパーでまとめ買いしておいたのがある。最近のつまみ缶は素材にこだわったものも多くそれなりに値が張るのに。
友梨が胡瓜の塩昆布和えをテーブルに置くと、貴之は無言でそれを箸でつまみ始めた。
赤魚の煮付けと筑前煮、ご飯に味噌汁。
結婚以来、素朴な和食を好む貴之に合わせてきた。料理の味付けに文句を言われたことは一度もなかったが、最近はよくコンビニで味付けの濃い缶詰を買ってくるようになった。そのことが友梨の胸にちくりと刺さる。
緑茶を淹れ、貴之の向かいの椅子に座る。
貴之はテレビを観ながらビールを胃に流し込む。
「今日ね、悠心のサッカーのお友達のママに招待されて、家に遊びに行かせてもらったの」
「ふうん、あぁ、佐和子さん? だっけ?」
貴之はテレビから目を離さない。
「ううん、茉莉香さん。息子さんは星凪くんっていうんだけど、駅前に大きなマンションあるでしょ? そこに住んでいるんだよ。新しいから中もすごくきれいだった」
「へぇ。良かったな、お友達が増えて」
「星凪くんはすごくサッカー上手でね、チームでも背番号が10番なの。エースなんだよ」
「そっか」
貴之は相変わらずテレビを眺めている。
「でね、星凪くんのお母さんと仲良くなったんだけど、これ、勧めてくれて」
友梨は、帰りがけに茉莉香に手渡されたサプリメントの試供品をテーブルの真ん中に置いた。
貴之はようやくテレビから目を離し、それを見た。
「子どもの成長に必要な栄養素がたっぷり入ってるんだって。これを飲んでから星凪くんもすごく背が伸びて丈夫になったんだって」
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