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言い過ぎたことは認める。論点をずらして日頃の不満をぶちまけたことも。
貴之は貴之なりに、理解を示そうとしてくれた。家事や育児の大変さはやっぱり全然わかっていないだろうが、それは友梨が夫の仕事の大変さを知らないのと同じなのだ。
それに……。
もし茉莉香に勧められたあのサプリメントが本当にマルチ商法の商品なのだとしたら、やっぱり断るべきなのだろう。それくらいの分別はあるつもりだ。
風呂から上がり、洗面所で化粧水とクリームで肌を整えると、友梨はリビングへは寄らずにそのまま2階の寝室へ向かった。
悠心がはねのけた掛け布団をそっと掛け直し、自分も布団へ横になる。
──いつまでこうして川の字で寝られるかな。
悠心のあどけない寝顔を見つめて、友梨は少しの間、感慨にふけった。
明日の朝、貴之に謝ろう。そして、次に茉莉香に会ったら、あのサプリメントを購入しないことを伝えなくちゃ。
もしかしたらもうランチ会には呼ばれないかもしれない。それでも仕方ない。今までだってそうだったんだから、元に戻るだけだ。
ママ友なら、いる。佐和子や、多恵や宏美。私はひとりじゃない。
目を閉じると、茉莉香の家の広い庭や、上質な調度品、おしゃれな料理、高価そうなお茶菓子を思い出す。
階下からは、テレビから垂れ流される笑い声が小さく聞こえている。
翌朝、友梨がリビングへ下りてキッチンへ向かうと、昨日の夕食の食器がすべて洗って水切りかごに入れられていた。
いつもなら貴之はこんなことをしないが、昨日はさすがにやらざるを得なかったようだ。
階段を下りてくる足音がして、貴之がリビングへ姿を現す。
「……おはよ」
少しだけ気まずそうに貴之が言う。
「おはよう。昨日は、ごめんね。サプリメントは断るから」
友梨がそう言うと、貴之は心底ほっとしたような顔をした。
「俺も、ごめん。感謝してるってこと普段は言葉にしていなかったし、これからは俺もちゃんとやるから」
「うん、悠心、起こしてくるね」
友梨は階段を上がる。
これで元通りだ。貴之とギスギスしたままでいることは耐えられない。何より大事なのは家族なのだから。
それから、慌ただしく貴之と悠心を送り出し、洗濯や掃除に取りかかる。今日は布団カバーやシーツまで全部洗ってしまおう。
バタバタとした時間を過ごし、家事を終えるともう午前10時半を過ぎていた。
買い物に行かなきゃ。
いつもの安売りのスーパーではなく、なんとなく駅前の高級スーパーへ足を向けた。
ほとんど利用したことはないが、ずっと興味はあった。今日はどうしてか無性に行ってみたくなった。
どんな商品があるか見るだけ。そうしたら帰りにいつものスーパーへ寄っていこう。
駐車場で車を降りたところで、聞き覚えのある甘い声が背後から聞こえた。
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