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「あれ? 友梨さん? わぁ、偶然だねぇ!」
振り向くと、大きなショッピングバッグを肩に掛けた茉莉香がこちらに手を振っている。思いがけない遭遇に友梨は胸がドキリとした。
「友梨さんもいつもこのスーパーに来てるの?」
「あ、うん、たまに……」
「そうだったんだね! じゃあ、ここのスコーン食べたことある? 美味しいよねぇ」
「そうなんだ、買ってみようかな」
友梨は愛想笑いをした。
「アールグレイのがオススメだよ! そうそう、昨日オススメしたサプリメント、飲んでみた? うちで飲んでもらったのはプレーンなんだけど、ショコラとベリー味も入れておいたから、好きなのを飲んでみてね」
茉莉香がサプリメントの話をしてきて、友梨は覚悟を決めて口を開いた。
「それが……すごく良いものだってことはわかるんだけど、旦那に反対されちゃって。その、言いにくいんだけど、ネットワークビジネスだからって……」
思い切ってそう言うと、茉莉香は高い声で朗らかに笑った。
「やだぁ、友梨さん、そんなの表向きのことだよ?」
「表向き?」
「そういうビジネスが好きな人もなかにはいるってこと。ただの宣伝文句だし、付加価値みたいなものなの。大抵の人はビジネスなんて関係なく商品が素晴らしいから購入してるんだよ。あんなにいいサプリメント、他にはないもの」
「そ、そうだったの……でもうちは金銭的にも余裕がないからって旦那が……今年の夏休みに旅行に行くから、その出費も嵩むし……」
見つめてくる茉莉香の大きな瞳から目をそらしながら、友梨は言葉を詰まらせる。
「そう、旦那様に反対されてるなら残念だけど仕方ないね」
そう言って、茉莉香はにこやかに笑った。
友梨はあっさり引き下がった茉莉香の顔を拍子抜けして見つめた。
「また勉強会にも遠慮しないで来てね! 友梨さんともっとお話ししたいし、それに星凪も悠心くんのことすごく好きになってね、またうちに呼びたいって言ってるから」
女優のような華やかな笑顔でそう言われて、友梨は自分でもわかるくらい頬が赤くなってしまった。
「あ、ありがとう」
友梨がそう言うと、茉莉香はつと歩み寄り、顔を近づけた。
ゆるくウエーブした髪から上品な花のような香りがする。そして、ささやくように小さな声で茉莉香はつぶやく。
「でも、本当に残念だな。旦那様、誤解してるんだね」
「え? 誤解って?」
「だって、サプリメントって決して特別なものじゃないから。うちは食費としてまかなってるんだよ。確実に身体の一部になっていくものなんだから、フレッシュなお野菜や魚やお肉と同じ」
そう言いながら、茉莉香は肩に掛けたバッグに触れてみせる。
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