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「普段こうしてスーパーとかで買ってる食材をちょっとだけ節約して、代わりにサプリメントを買っているだけだから月々の食費は変わらないし。でもサプリメントがあるとないとでは大違いなの。驚くほど効果があるんだよ」  見つめる瞳を離さずに、茉莉香は続ける。 「私もね、誰彼構わず声をかけているわけじゃないから。やっぱりどうしてもその人が持っている資質って、必要なの。悠心くんにはその資質があるから」  きっぱりとそう言い切ると、茉莉香はまたやわらかい笑顔に戻って言った。 「でもそれって、私が勝手にしてることだもんねぇ。ほら、芸能人のスカウトマンみたいな気持ち? この子、すごい資質があるって思ってつい声かけちゃうみたいな」 「そんな……ありがとう。そこまで思ってくれて」  友梨はなんと言っていいかわからず遠慮がちにつぶやく。そんな友梨に茉莉香は目を細めて、 「近々、お茶でも! また連絡するね」  そう言って手を振り、茉莉香は自分の車のほうへ歩いて行ってしまった。  友梨がしばらく茉莉香の去ったほうを見ていると、動き出した大型の高級車が出口へ向かっていく。  気持ちが、引き戻されていくことに気付く。  やっぱり、もう一度貴之に話してみようか。月々の出費が変わらないなら、食費の一部をサプリメントに置き換えたっていいのではないだろうか。  それに、ネットワークビジネスだって、商品を購入するだけなら何の問題もない。  貴之が言うような怪しいビジネスに手を染めるわけではなく、あくまでも自分はただの消費者なのだから。  その夜、帰宅した貴之にそのことを告げると、夫は遅い夕食を摂りながらしばらく黙った。  点けっぱなしのテレビに目をやることもなく、テーブルの上の肉じゃがの皿を見つめている。昨日の喧嘩の二の舞にならないよう、慎重に言葉を選んでいるようだった。  友梨は貴之の返事を待ちきれず、言葉を続ける。 「無駄な出費が増えないように節約するし、それに効果がないって感じたらすぐやめるから」 「……」  煮え切らない様子の貴之は箸を置き、ようやく友梨を見た。 「金銭的なことは、そこまで気にしてないよ。でも、何かトラブルになるようなことはしないでほしいんだ。例えば、ママが誰かを直接勧誘するとか……」 「そんなこと、最初からするつもりないよ。言ったでしょ、ただ商品を買うだけだからって。ネットショッピングと同じだよ。それに、全部悠心の将来のためだから」  友梨がそう言い切ると、貴之は迷うように目を伏せたあと、 「……それなら、期間を決めて購入しよう。最初は3ヶ月とか」  仕方なく、という様子でそう言った。そして、逃げるようにテレビへ目を移す。 「わかった。ありがとう。明日、茉莉香さんに連絡して契約してくる」  友梨は声を弾ませて言ったが、貴之は浮かない顔でテレビを眺めているだけで、もう友梨の顔を見ようともしなかった。
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