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「うん、そうだね、ありがとう」
茉莉香の言っていることは正しい。もしも逆の立場だったとしても、そう思わざるを得ないだろう。
──涼子さんって、確か……。
友梨は宏美から聞いた、コーチと涼子の不倫の噂を思い出す。そんな不確かな噂話をこんな時に思い出してしまうなんて……。
茉莉香がきっぱりとコーチとの関係を否定した今、どうしてか涼子との関係は生々しく感じられて、友梨は思考を切り替えようとカフェオレに手を伸ばす。冷たい液体が真っ直ぐに喉を通り抜けていった。
「茉莉香、友梨さん!」
聞こえてきた声に、茉莉香が顔を上げて手を振る。
友梨が後ろを振り返ると、コーヒーカップを手にした田辺美優が友梨に目を合わせて笑いかける。
「ポジションのこと相談しようと思って美優も呼んじゃった」
悪びれずに茉莉香が言うと、美優は「お邪魔しま~す」と言って友梨の隣の椅子に座った。
「ね、美優もこれ見て? 問題はキーパーだよね」
茉莉香が手帳に人差し指を突く。どれどれ、と美優が手帳を覗き込み、
「うーん、いっそのこと大翔をキーパーにしてみる? 一応キーパーの練習もさせてるし、本人も意外とやりたがってるんだよね」
美優は自分の息子の名前を出す。
「そうなの? 大翔くんキーパー希望? うーん、でもなぁ、フィールドから大翔くんが抜けると結構キツイかな。オフェンスできる子、限られてるし」
「うーん、じゃあ……」
茉莉香と美優は顔を寄せて話し込んでいる。
友梨は会話に入れず、カフェオレのカップに付いた水滴を紙ナプキンで拭った。
手持ち無沙汰にしていると、ふいに美優が顔を上げて友梨を見た。
「そうだ、今日友梨さんにも用があったんだった」
そう言うと、トートバッグから1センチほどの厚さの冊子を取り出して、友梨の前に置いた。
「友梨さん、プロティンベースのサプリ始めたでしょ? 合わせて飲むのにオススメの商品に付箋つけといたから見てみて! これはタブレットだから気が付いたときにすぐ食べられて持ち歩きにちょうどいいよ。ヨーグルト味なんだけど、悠心くんヨーグルト好き?」
「あ、うん、好きだよ」
友梨は戸惑いながらも答える。
「良かった~! それじゃちょうどいいね! これはカルシウムとビタミンDを強化してる商品で、あとオススメはこれかな、体内で合成できない必須アミノ酸が摂取できるから脳の発達にも効果があって」
「あ、美優さん、あのね」
友梨は美優の説明を途中で遮る。
「今飲んでるもので、うちは十分かな。過剰摂取になってもいけないし」
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