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「え? そんな心配いらないよ? だって今飲んでるプロテインはあくまでもベースで、これはそれを補完するためのサプリだから、過剰になんてならないし、むしろ相乗効果になるくらいだよ。ねえ、茉莉香」
美優が茉莉香の顔を見ると、茉莉香は少し黙ったあと、「そうだね」と低く言った。
美優は構わず話しだす。
「うちはさぁ、小学校入学までは本当にヤンチャで。気に食わないことがあるとすぐにお友達に手を出したりしてもう目が離せなかったのね、でもこれを飲んでからは本当に落ち着いて」
「あの頃はよく星凪も大翔くんにぶたれて泣かされたよね」
同じ幼稚園だったのか、茉莉香が昔を思い出すように言う。
「やだ、ごめんって。でも今はそんなことないでしょ?」
「そうだね、大翔くんほんと落ち着いたよね。でもほら、悠心くんはヤンチャってわけじゃないし」
「そうだね〜。じゃやっぱカルシウムがいいかな? あとは……」
美優が手を伸ばしてきて、友梨の目の前に置いたカタログを捲る。
返事をしないうちにどんどん話が進んでいくことに友梨が困惑していると、茉莉香が見兼ねて助け舟を出す。
「美優、そのくらいにしておいたら? 友梨さん困ってるよ」
すると美優は手を止めて友梨を見た。
「そう? 友梨さん困ってるの?」
ストレートにそう聞かれて、友梨は口籠る。言い訳を頭で巡らせながら、ようやく口を開いた。
「……ごめんね、こうやって色々教えてくれるのはとっても有難いんだけど、追加で購入するなら旦那に許可をもらわないといけないし、経済的なこともあるし……」
「そっかそっか、友梨さんまだ始めたばかりだもんね」
美優は納得したように頷く。
「でも続けていけばそんな心配もなくなるから」
「ねえ、そろそろ子どもたち帰ってくる時間じゃない?」
唐突に茉莉香がそう言って、バッグを持って立ち上がる。
友梨は慌てて時計を見たが、まだ13時すぎ、帰宅時間には少し早い。
だが茉莉香はさっさとコーヒーカップを返却台へ運んでしまう。
仕方なく美優と友梨も立ち上がった。テーブルに開いたままになっていたカタログを閉じ、美優は友梨に手渡す。そして、少し声を落として友梨だけに聞こえるように言った。
「契約するときに茉莉香がなんて言ったか知らないけど、友梨さんにだってチャンスはあるんだよ。私はもう毎月のサプリ代と相殺できる以上の収入を得てるよ」
友梨が驚いて美優を見ると、美優は自信ありげに笑って見せた。
「これ、使っていいからね」
友梨に渡したカタログを指差す。
「言ってくれたら何冊か用意するから」
そう囁くと、先に店の外へ出てしまった茉莉香の背中を追いかけていった。
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