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6
屋上駐車場に停めたと言う友梨と別れて、茉莉香と美優はテナント店の並ぶ通路に立ち止まる。
茉莉香が苛立っているのはわかっていたが、美優は気にすることなく普段の口調で話しかける。
「私、ちょっと大翔の新しい服見たいから、茉莉香はどうする?」
茉莉香は不機嫌を隠さず、しばらくの間、美優を見つめてようやく口を開いた。
「ねぇ美優、友梨さんに強引なことしないで。あの人、すごく慎重だし、繊細なんだよ」
やっぱり言ってきたか、と美優は思う。言いたいことがあるとき、茉莉香は口にする前に黙り込むくせがある。意図して注意を引こうとするのだ。
美優はそんな茉莉香を見透かすように、さらりと言った。
「そう? 私はそうは思わないけど。慎重なのは友梨さんじゃなくて、茉莉香のほうでしょ? 友梨さんには多少強引なくらいがちょうどいいって私は思うな」
美優がそう言うと、茉莉香は不服そうに顔を少し赤らめた。
「そうじゃないの、私はね、友梨さんにサプリを購入することを自分自身で選んだんだって思ってほしいの。選ばされたんじゃなくて。そうするには段取りだって必要なんだから、美優に横から邪魔されたくない」
「邪魔って、いいでしょ、私にだって関係あることなんだし。だって茉莉香の親は私なんだから」
そう言って茉莉香の目を見据えると、いつものように茉莉香は怯む。
「茉莉香にビジネスの手練手管を教えたのだって、私。弟子がチンタラしてたら師匠だって口出ししたくもなるよ」
違う? と言うように瞳を覗き込むと、茉莉香は黙って美優の目を見返してくる。
茉莉香が何も言わないので、美優は畳み掛けるように続けた。
「ねえ、涼子さんが契約解除したのだって、どうしてかわかってるでしょ? 茉莉香のいけないところは何でも自分中心なところ。自分の信者にして継続させるつもりかもしれないけど、そんな関係は脆いってこと。結局は利益で繋がっていくのが一番堅いんだから。みんなが得するやり方をしなくちゃ。そうでしょ?」
もう茉莉香は美優の目を見ることもなく、視線を落として唇をきゅっと引き結んでいる。
「もちろん、お膳立てはしてあげる。でも失敗を反省しないなら話は別」
そう言うと、美優はふふっと笑った。
「その膨れっ面、子どもみたいだよ、茉莉香」
茉莉香は眉間に皺を寄せて顔を上げる。
「言ったでしょ、常に自信のある振る舞いをしてって。私とふたりきりだからって気を抜かないで。それじゃ私、行くね」
唇を噛んで黙り込む茉莉香を残し、美優は子ども服を扱うテナントの並ぶ通りへと足を向けた。
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