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クラブは上達順にチームを編成しており、上位チームと下位チームの2チームに分けられている。実際はこのような露骨なネーミングではなく、ホワイトチームとブルーチームと呼ばれ、内輪では単に一軍・二軍と称される。
一軍はレギュラーメンバーとして公式試合などに出場できる。両チームともに練習時間もメニューもほぼ同じだが、コーチの熱の入れ様がどうしても一軍へ傾きがちなことは、友梨たち保護者の目からも見ても明らかだった。
悠心、航大、一希、それと宏美の息子の朋也は皆、二軍に属している。保護者たちも自然と一軍同士、二軍同士で結びつくことが多かった。
特に一軍の保護者たちは仲間意識が強く熱心で、定期的に有料コートを借りて自主練習や勉強会などを行っているようだ。
「それがさぁ、ここ見てよ。コーチが映ってるの」
「え? どれ?」
友梨は画像に目をこらす。ゴールポストの前にしゃがみ、爽やかな笑顔を向けるコーチの深田慎也の姿を見つけた。
「ほんとだ、コーチだね」
佐和子もあきれたような声を上げる。
「ね? 自主練にコーチを呼ぶのはちょっとどうかと思うよ。うちらも同じ月謝払ってんのに一軍だけ練習量増やすとかおかしくない?」
宏美が不満げに口をとがらせる。しかし悪口のネタを見つけたためか、表情はどこか浮ついて見える。
「確かにおかしいよねぇ。これじゃ一軍と二軍でどんどん差が開いちゃう。二軍の子たちだって、実力次第では一軍の子と入れ替わることができるはずなんだから」
多恵が声を大きくして文句を言う。
実際、二軍から一軍への昇格は常時検討されている。逆に調子が悪かったり、練習試合で結果を残せないと一軍から二軍へ降格し、そして入れ替わりに二軍で上位にいる選手が一軍へと昇格する。
ただ、子どもたちの実力差に大きな変化はそうそう現れない。ここ一年ほどは、メンバーの入れ替わりは発生していなかった。しかしそれが公表されていない練習メニューの差によるものだとしたら、不平不満が出るのも仕方がないというものだ。
「どこから見つけたの? この写真」
友梨が聞くと、宏美はスマホを操作してSNSのホーム画面を表示させた。
アイコンは背番号10番の白いユニフォーム。クラブチームで10番と言えばひとりしかいない。長谷川星凪。その母親、茉莉香のSNSだ。
色鮮やかな生花や、お洒落な料理の写真が並ぶなか、ユニフォーム姿の子どもがボールを蹴る様子なども掲載されている。
同じ生活圏にいるはずなのに、こんなにも華やかな写真を、友梨はとても撮影できそうにない。
一言で言うと生活レベルが違うのだ。
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