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 涼子の息子の吉成も口数が少なくおとなしい印象だが、サッカーの練習に対しては人一倍熱心なようだ。在籍以来、ずっと一軍に所属している。 「でも、涼子さんって車の運転しないからいつも自転車でしょ? 練習場が遠くてただ送迎してもらっただけなんじゃない?」  佐和子が口を挟む。 「だからってさぁ、コーチに送迎頼むとかある? だってその日は一軍ママたちが勢揃いしてたんだよ? お願いすればいくらでも相乗りさせてもらえるでしょ」  宏美が言うと、多恵もそれに乗っかる。 「確かにねぇ。しかも手前のコンビニでコソコソ降りるとか怪しい」 「でしょ?」  宏美が確信めいた笑みを浮かべる。 「乗り換えたんだ、コーチ」  いつも豪快な多恵が、神妙な顔つきでつぶやいた。 「茉莉香さんと涼子さん、裏で一悶着ありそうだね。コーチを巡る不倫の争奪戦とか、修羅場すぎ~」 「ま、うちらには関係ないけどね」  多恵と宏美が声を合わせて笑った。 「あ、そろそろ上の子が帰ってくるわ」  唐突に我に返った多恵がテーブルを片付け始める。それを見て宏美もスマホの時計を確認する。 「あ、ほんと」  そう言って、残っていたコーヒーを一気に飲み干す。  多恵と宏美にはそれぞれ1人目の子どもがいる。ふたりとも小学校高学年だ。今日は学校は休みだが、クラスの友達と自転車でどこかへ遊びに行っているらしい。  パンの包み紙やコーヒーカップをトレイにまとめると、多恵は立ち上がった。 「じゃ、ごめんお先に~。航大! 帰るよ!」  いつものがなり声で息子を呼びつける。  宏美も朋也を呼び、立ち上がった。 「またね、友梨ちゃん、佐和子ちゃん。そうだ、土曜日練習試合あるよね?」 「うん、また土曜日にね」  友梨と佐和子は座ったまま手を振る。  慌ただしく帰って行く背中を見送って、友梨と佐和子はなんとなく目を合わせた。  嵐が過ぎ去ったような気分。相手も同じことを考えていると気付き、顔を見合わせたまま小さく笑い合った。ふたりになった途端、佐和子は緊張を解くように座り直した。のんびりとした空気が漂う。  佐和子とは、悠心が幼稚園に入園した頃からの付き合いだ。  幼稚園の入園式で、隣り合って座っていたのが佐和子だった。  初めての我が子の入園式に緊張したその面持ちは、鏡のなかの自分を見るようで、友梨はなぜだか気持ちがほどけたのを今でも覚えている。佐和子も同じように感じたのだろう、式が終わり、会場を出るときに自然と言葉を交わした。  話してみると家も比較的近いことがわかり、それからすぐにふたりは打ち解けた。悠心と一希もうまが合うようだ。  押し付けがましくなく穏やかな佐和子と話していると、これまで感じてきた子育ての孤独がふっと霧散していくような感覚を覚えた。 「一緒にサッカーを習ってみない?」  そう誘ってきたのも佐和子だった。  ボール遊びが好きだった悠心は、一希と一緒に喜んでサッカークラブに通い始めたのだ。  冷め切ったコーヒーをちびちび飲みながらとりとめもない話をしていると、悠心と一希が遊び終えてテーブルに戻ってきた。  悠心は氷が溶けて薄くなったオレンジジュースを一気にストローで吸い上げ、「おやつ食べたい」と言う。佐和子はそんな悠心と一希に笑顔を向けながら、 「いっぱい遊んだもんねぇ、そろそろ私たちも帰ろっか」  そう言ってカップを傾けてコーヒーを飲み干す。 「そうだね、あー、晩ご飯何にしよう」  友梨もトレイを持って立ち上がった。 「それね、今お腹いっぱいだから献立考えるの無理」  佐和子もトレイを持ち上げて笑う。
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