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「僕の姉ちゃんもSunnyなんですよ、だからあの時すぐ分かったんです」
「あぁ、なるほど!家族にいたら例えキーホルダー1つでもわかるよね!」
話してみると、いろんな疑問が解決していく。解決しないのは、彼と"アオハくん"が同一人物かどうかという事実関係だ。
とはいえ、話しながら完全に同じ道を歩き続けるので、さすがにユリも疑問を口にした。
「今日もこれからバイトですか?」
「え?えっと今日は違うんですけど……あ、なんでスーパー朝顔って名前なのか知ってます?」
話をすり替えられたことが一瞬気になったが、質問をされてしまったのでユリは答える。
「近所だから通ってるけど、それは知らないなぁ」
「オーナーが、夜空が好きなんですって」
「わ、それは私と同じだな」
「それで、あまりに月とか星が好きすぎてさすがに太陽に嫌われる気がしてスーパーに『朝顔』って付けたらしいっすよ」
不思議な理論に付いていけず、ユリは笑う。
それを見て、少しだけユリのその後が気がかりだった彼も笑う。
「いや、僕もよくわかんないけどスーパー朝顔の豆知識おすそ分けです」
「では常連としてしっかり頭に入れておきますね」
なんだかんだ話しているうちに、ユリの家の下まで来てしまった。ここまで来てしまってはぐらかすのも不自然なので、正直に言う。
「わたしんち、ココなんで、じゃ」
「ココ……?あ、そうなんですね、じゃ」
彼が一瞬驚いた顔をしたようにも見えたが、真下まで着いてきてしまった事に気付いての反応だったのかなと、ユリは気にせずエントランスに消えていった。
ユリは彼と離れて冷静に集合ポストの中身を確認しながら、大事なことが解決していないことに気付く。
「ん?まてよ、もしかして名前を聞けば1発で解決したんでは?!」
いや、本名で活動してるかどうかもわからないじゃないか。もう、次に偶然会えたらストレートに聞こうかな、探りを入れるとか向いてないわぁ…と、どっと疲れ驚きの混じったため息をつくユリ。
ヲタク探偵ユリ、片方のご本人と会話までするも、本日の調査は失敗に終わった。
一方でユリを見送った彼は、10歩ほどマンションを通り過ぎて立ち止まる。そして、真上にそびえ立つセキュリティしっかりめのマンションを見上げてつぶやく。
「マジかぁ、わたしんちココって、ココ?しかもさすがだな、たぶんバレてんな……いつまで隠せるかなぁ」
ータッタッタッ
暑そうなフード付きパーカーに身を包んだいつものランニングの人が、マンションの前を通り過ぎる。その時、ランニングの彼とアオハくん似の彼は一瞬挨拶を交わした。
『おつかれ』
複数の偶然が重なりすぎた現実に、アオハくん似の彼もまた、ユリと同じく驚きの混じったため息をついた。
「ふぅ、そろそろいいかな?」
ユリが完全にエレベーターには乗り込んだであろうくらいのタイミングを見計らって、彼もエントランスへ向かう。
そう、たったいま自宅を通り過ぎた、偽りの10歩を戻って。
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