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会場は、ここで合っているはず……?
ユリは周りを見渡すが、いくらデビューイベントとはいえ会場に着いているヲタクが少なすぎる。不安になって、マルちゃんにメッセージを送る。
「わたし着いたよー!」
すぐに既読になり、驚き顔のスタンプとともに返事がきた。
「え、早っ!待ち合わせ1時間後じゃん!もうちょっと待っててねうち今家出たとこ!」
今度は、それを見たユリがマルちゃんから送られてきたスタンプのような顔になった。
待ち合わせより1時間も早く到着してしまったのだ。
「やってしまった……」
という事は、今まわりにいるごく数人のヲタクは、デビュー前からの熱狂的ファンという事だ。STELLAのファンが少ないというわけではなかったのは安心だが、途端にここで待っているのは気が引ける立場だと自覚した。近くのお店でマルちゃんを待とうと、ユリが会場前を去ろうとした、その時。
目の前から、バケットハットを少し深めにかぶってもイケメンオーラが隠しきれていない長身長髪の誰かが全力で走ってきた。そして、走り過ぎながら立ち尽くすユリの顔を見た瞬間、振り向いて、指を差して彼が叫ぶ。
「あーっ!!」
「へ?!」
驚いたユリもその人のバケットハットの中を覗き込むと、見たことのある人だった。
「……!!!!」
一瞬の判断で、彼と同じように叫びそうになった声を抑えたのは、ユリのヲタク本能。
相手が有名人であるならば、大騒ぎしてはならない。が、すでに先に彼が叫んだので手遅れだった。会場前にいた数名の熱狂的ファンの中の一部が「あれ誰?」という空気になってきている。
「あ、やべ!ごめんちょっと着いてきて!」
「え、えぇっ?!!」
ユリは、腕をつかまれ会場横の関係者ONLYと書いてあるドアの中へと引っ張りこまれた。また今日もよくわからない状況に、ユリは心の中でマルちゃんに助けを求めた。
『マルちゃん、もう私の人生意味不明!たすけてぇー!!』
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