見たことある人たち……?

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「ピッ」 ユリは、ひとりで最寄り駅の改札を出る。 結局CDショップのあと、少しカラオケにも行って盛り上がった。マルちゃんが夕飯は彼氏と食べる予定なので、ユリは帰宅することにした。 「彼氏かぁ……なつかしい響き」 改札を出たユリは、家を少しだけ通り過ぎて夕飯をスーパー朝顔に買いに行くかどうか、一瞬考えた。でも今は、抽選の結果次第とはいえ、STELLA(ステラ)の握手会に行くかもしれないと決まった。このタイミングでうっかりまた店員さんに遭遇してしまっても、いったいどんな顔をしたらいいかわからない。ユリは夕飯を、家にあるもので済ませようと決意した。 「あ……!」 「え?!」 たった数秒後、ユリの決意を無かったことにする相手と駅の出口でバッタリ会ってしまう。 「あ、この前はどうも……」 と、ぎこちなく言う彼は鮮魚コーナーのマスクをしていない、フル公開バージョンのイケメン!!目もとだけでは少しキリッとした印象だったので、なんともいえない可愛らしさが足された全容公開に、ユリは一瞬目を細めた。 「まぶしっ……じゃなくて、この前はどうも」 そう言いながら、立ち話をするほどの仲ではないのでお互いに恐らく同じであろう進行方向へと進み始める。 「なんか僕、この前元気だしてくださいなんてお節介なこと言ってすみませんでした」 「いえいえ!あの日は飼い猫にしか励ましてもらえない予定だったので、嬉しかったです」 無口そうに見えたが、以外と彼が次々話しかけてくるのでユリは反射でその場をしのぐしかなかった。幸い、斜め前の道路を見つめながら話しかけてくるので、ユリは予定より早まった本人確認をしようと試みる。 マスクなしでも、やっぱりテレビの中にいた"アオハくん"に激似だ。世の中の8割くらいはマスクを取ったらガッカリするものだろうけど、むしろ輝いていて眩しい。鉢合わせした時に正面、今は横顔を凝視しているがこんなに整った顔をまじまじ見るのは初めてだ。そして、肝心の目もとのホクロはやっぱり存在しない。あんなに特徴的でご本人がチャームポイントとするものがないのならば、別人なのだろうか。おまけに、私服のセンスも絶妙に良い。なんだこの加点ポイントしか見つからない人類……。 ユリが脳内でヲタク探偵を繰り広げている間に、さすがに見つめすぎていることが彼にバレた。 「実は実家が魚屋で、僕があの刺身捌いたんです……よ?え、僕の顔なんか付いてます?」 「あ、いえ、ご存知のとおりヲタクなんでついイケメンを観察するクセが出ちゃって……すみません」 「ははっ、僕くらいの人なんていくらでもいるじゃないですか」 イケメンが謙遜する、性格までよろしいとはさらに事件だ。そして、ヲタク探偵ユリは心の中で彼の発言を全否定した。 『こんなに整ったイケメン、この世に"いくらでも"なんていないわっ!』
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