あまごいランドリー

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 コインランドリーの中にはベンチが一台しかない。飲料水の絵が入った固いベンチ。  私たちは並んで座った。  雪乃ちゃんが真ん中。  私が雪乃ちゃんの左側。星くんが右側。  今日初めて出会ったカップルと並んで、洗濯機と乾燥機が回るのを観察する。  上になって下になって、もつれてる洗濯物。  機械の回る音だけがわんわんと規則的に高まる。  泡の中で、叩き付けられてひっくり返って、身に着けていたもの同士が絡まってる。  雪乃ちゃんの手と星くんの手も、ベンチの上で繋がってる。  指同士が無言で絡まってる。  雪乃ちゃんの手は白くてふっくらしてる。  雪乃って名前、ぴったりだなと思った。  横目で雪乃ちゃんのほっぺを盗み見る。白くてふんわりしたほっぺ。  舐めたら甘そう。柔らかそう。 「都会に来たんだなあって実感する。こんなに顔が小さくてモデルさんみたいな子が、スマホの中じゃなくて、普通にいるなんて」  雪乃ちゃんは私の容姿をほめてくれた。  星くんはあいまいにうなずいた。  雪乃ちゃんは就職のために、この街に引っ越してきたばかりだった。  洗濯機はまだ部屋に届いてないんだそう。  星くんは今夜の新幹線で地元に帰るんだという。 「お引っ越しを手伝ってくれるなんて、優しい彼氏だね」  私の言葉に星くんはあいまいにうなずいた。  あいまいな笑顔。  遠距離恋愛ってどんな感じかな。  私には想像できない。  自分がちょろいのは知っていた。  近くにいる相手に引き寄せられる。人肌がないと眠れない。  だから、離れた場所の相手を想い続けるなんて超人技だと思った。  雪乃ちゃんと星くんは洗濯物を大きなビニールバッグに入れて、出て行った。  私の洗濯物はまだ乾燥機の中で回っていた。  二度と会うことのないカップルかもしれないけど、私は彼らに笑顔で手を振った。  幸せのお裾分けをしてもらった気分。  ふたりがこれから部屋に帰ってバスルームに洗濯物を干して、残りの時間をどう過ごすのか想像した。  星くんが帰ってしまう前に観光するのかな。雨の中の東京タワーとか、スカイツリーとか。  それともベッドの上で抱き合って過ごすのかな。
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