74人が本棚に入れています
本棚に追加
コインランドリーの中にはベンチが一台しかない。飲料水の絵が入った固いベンチ。
私たちは並んで座った。
雪乃ちゃんが真ん中。
私が雪乃ちゃんの左側。星くんが右側。
今日初めて出会ったカップルと並んで、洗濯機と乾燥機が回るのを観察する。
上になって下になって、もつれてる洗濯物。
機械の回る音だけがわんわんと規則的に高まる。
泡の中で、叩き付けられてひっくり返って、身に着けていたもの同士が絡まってる。
雪乃ちゃんの手と星くんの手も、ベンチの上で繋がってる。
指同士が無言で絡まってる。
雪乃ちゃんの手は白くてふっくらしてる。
雪乃って名前、ぴったりだなと思った。
横目で雪乃ちゃんのほっぺを盗み見る。白くてふんわりしたほっぺ。
舐めたら甘そう。柔らかそう。
「都会に来たんだなあって実感する。こんなに顔が小さくてモデルさんみたいな子が、スマホの中じゃなくて、普通にいるなんて」
雪乃ちゃんは私の容姿をほめてくれた。
星くんはあいまいにうなずいた。
雪乃ちゃんは就職のために、この街に引っ越してきたばかりだった。
洗濯機はまだ部屋に届いてないんだそう。
星くんは今夜の新幹線で地元に帰るんだという。
「お引っ越しを手伝ってくれるなんて、優しい彼氏だね」
私の言葉に星くんはあいまいにうなずいた。
あいまいな笑顔。
遠距離恋愛ってどんな感じかな。
私には想像できない。
自分がちょろいのは知っていた。
近くにいる相手に引き寄せられる。人肌がないと眠れない。
だから、離れた場所の相手を想い続けるなんて超人技だと思った。
雪乃ちゃんと星くんは洗濯物を大きなビニールバッグに入れて、出て行った。
私の洗濯物はまだ乾燥機の中で回っていた。
二度と会うことのないカップルかもしれないけど、私は彼らに笑顔で手を振った。
幸せのお裾分けをしてもらった気分。
ふたりがこれから部屋に帰ってバスルームに洗濯物を干して、残りの時間をどう過ごすのか想像した。
星くんが帰ってしまう前に観光するのかな。雨の中の東京タワーとか、スカイツリーとか。
それともベッドの上で抱き合って過ごすのかな。
最初のコメントを投稿しよう!