67人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「雪乃ちゃん、きれいだね。いつも可愛いけど、今日はいつもよりきれい」
思ったことを口にした。
六月も終わりかけの土曜日。
雪乃ちゃんは珍しく、私より先に来ていた。
今日は豪雨と言っていい天気だった。今日は雪乃ちゃんは来ないかもしれない、と半ば諦めていた。
コインランドリーのガラス窓に雨がびしゃびしゃと当たっている。
雪乃ちゃんはベンチの上で私と手を繋がなかった。スマホを握りしめていた。
「この雨のせいで、東海道新幹線が遅れちゃっているみたいなの」
せっかく星くんが来る予定だったのに、と雪乃ちゃんが顔を曇らせる。
私は半袖から伸びた自分の腕をこする。雪乃ちゃんとくっついていないと寒い。
いつもより念入りにお化粧して、雨降りなのに可愛いサンダルを履いて、恋する女の子はなんて健気なんだろう。
雪乃ちゃんは首をねじったような姿勢のまま窓の外をにらみつけていた。
私は洗濯機と乾燥機を見ていた。
泡の中で絡まる洗濯物。
上になって下になって、もうどっちがどっちか分からない。
混ざり合って、このままずっと回っていて欲しいのに。
星くんがうらやましい。
雪乃ちゃんにこんなに想われてて、雪乃ちゃんに触れて抱きしめることが許されてる彼氏。
私は星くんになりたい。
雪乃ちゃんがうらやましい。
洗い立てのシーツを用意して彼氏を待っている、すずらんの匂いの女の子。
私はそんな存在になりたかった。
私は雪乃ちゃんになりたい。
星くんと雪乃ちゃんから産まれた子は、きっと清らかに幸せに育つ。
雪乃ちゃんは地元にいるべきだったんだ。
冒険して足を滑らせたら、私と同じになっちゃう。
洗濯物がぐるぐる回るみたいに、お腹の底がぐるぐる回る。
雪乃ちゃんの手の中でスマホが震えた。
雪乃ちゃんのため息に、私のお腹の底がじわっと震える。
最初のコメントを投稿しよう!