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私は濡れねずみの靴を脱いでベンチの上で膝を抱えた。
コインランドリーに着く前に横殴りの雨で身体が濡れた。
そのせいか、寒い。
こんなお天気の日でも、もしかしたら、雨だからこそ雪乃ちゃんは来るかもって、そう思ってここへやって来た。
星くんも来るだろうか。
こんな日だからこそヒーローみたいに、雨をものともせず、雪乃ちゃんのために来るだろうか。
「大丈夫?」
雪乃ちゃんが私の異変に気が付いて、背中をさすってくれた。
寒気とは違うゾクゾクが背骨を這い上ってくる。
わたしはいじわるで、よこしまで、いやらしい。
「ちょっと寒いだけなの」
私は嘘をつく。
私は、雪乃ちゃんに触られたい。
雪乃ちゃんの手の中で、またスマホが震える。
雪乃ちゃんは右手でメッセージを確認しながら、左手で私の背を撫でてくれる。
雨と風が強まっている。
このまま降り続けて欲しい。
星くんを乗せたまま新幹線が止まってしまえばいい。
洗濯機も乾燥機も回り続けて、永遠に止まらなければいい。
いつまでも回って、コインランドリーに閉じ込められちゃいたい。
びりびりする低めの音、ブザー音と共に乾燥機が止まった。
乾燥が終わったのは雪乃ちゃんのシーツだ。
薄い黄色地の小花柄のシーツ。ふちにゴムが入っててベッドにすっぽり被せられるやつ。
私は立ち上がった。濡れたスニーカーに足を突っ込む。
雪乃ちゃんの手が私の背中をすべり降りる。
私は雪乃ちゃんの手を引いた。白くて柔らかくて、最初に会った日に見惚れた手。
「雪乃ちゃん、てるてるぼうずを作ろう」
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