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せっかくきれいになったシーツ。
乾燥したてのふわふわ熱いシーツをふわりと持ち上げる。
私たちの頭の上に被せる。
淡い黄色のテントの中。
私は足元を見る。私の濡れた靴と雪乃ちゃんのサンダルが向き合ってる。
「これはお祈りなの」
私は嘘をつく。
「雪乃ちゃんのために、雨が止むようにって、お祈りなんだよ」
もしもお店の外から誰かが中をのぞいたら、私たちは、てるてるぼうずというより、育ちすぎたおばけみたいに見えるだろう。
小花柄のおばけが乾燥機の前に突っ立っている。
幸い、横殴りの雨のせいで窓ガラスも全然クリアじゃない。
お客さんも来ない。
「雨よ止めってお祈りしよう」
これも嘘。
私は嘘を重ねる。
私は雪乃ちゃんの肩に腕を回す。
私の方が少し背が高いから、雪乃ちゃんを私の腕の中に閉じ込める。
雪乃ちゃんの胸が私の胸に当たる。そこから溶けて混ざってしまいそう。
本当は雨が止まないように祈ってる。
雨乞いしてる。
雨よ降れ。雨よ降れ。
永遠に降り続けて、梅雨が明けなければいい。
「雪乃ちゃんも目を閉じて、祈って」
雪乃ちゃんが素直に目を閉じる。
雪乃ちゃんのまつげの影。
白くまるいお肉ののった、ほっぺた。
私は乞う。雨を乞う。愛を乞う。
雨乞いする。
「これはお祈りだから」
シーツの下で雪乃ちゃんの髪をひと房耳にかけ直してあげる。
ずっとこうしたかったの。
乾燥ドラムみたいにお腹の底が熱く回って、感情が振り切れる。
雪乃ちゃんの頬にそっと口付ける。
ファーストキスなんかより、もっとずっと、怖いくらいに唇が震えてる。
かさかさの私の唇で味わう、雪乃ちゃんの頬。
産毛とまつげとひそやかな息。
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