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 洗面所には先客がいた。強めのワックスをこれでもかと赤髪に塗りたくる姉貴。片手を挙げて、おっはーと言う。  俺は姉貴と並んで洗面所を使う。鏡越しに姉貴が俺を見上げて、ニンマリ顔。 「カッコいい弟を拝めるなんて姉貴は、この上なき嬉しさよ」  なに言ってるのと冷たい視線を向ける。キャーとらしくない黄色い悲鳴をあげる姉貴が熱く語る。 「拓哉よーくご覧なさい。あなたはタケルくんに似ているのよ。それは誇ること〜♪」  某戦隊ものに出演して今も第一線で活躍中の俳優さんに似ているのは170センチの身長だけ。  ゴシゴシと歯ブラシを動かして、鏡に映る顔を見る。一重で大きな流し目で短髪の黒髪、あごはシャープなほう。  あらあらとまだいる姉貴が、脇腹を小突いてくる。鏡を見て自分に酔っていると思われたみたいだ。 「歯磨きして顔を洗ってただけ!!」 「父さんが帰ってきて郵便受け見ると、必ずラブレターが入ってる拓哉さん」  父は夜間勤めで就寝中。できれば姉弟ケンカは穏便に済ませたい。 「朝食できたから早く来なさい」  ダイニングのほうから母が俺たちを呼ぶ声にはーいと同時に返事をする。  俺は姉貴を見つめて言い返す。 「ブラコンが過ぎる」  あらあらと両手を繋いで嬉しがる姉貴にため息をつき、洗面所を出ていく。
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