プロローグ

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 南の部屋でプチケンカしている俺らを、わずかに開いた扉越しにこちらを見ている視線に気づく。 「ご心配なさらず、どうぞ入ってください」  本来なら南が言うべき言葉を俺がかけるのは、彼女が、膨れっ面のままベッドに体育座りして、背を向けているからで。 「あらあら」 「おやおや」  両親がニコニコしながら入室。掛け声が昔話のおじいさん、おばあさんだと思ったことは胸のうちに秘めておく。  家族のように親しいとはいえ、17歳の娘が気がかりなのだろう。 「おじさん、おばさんお邪魔してます」  山寺(やまでら)家が勢揃いしている部屋で、背中を向けてへこみ中の娘に視線を向けた両親が、俺に視線を向けてくる。 「色紙が散乱してるところから見ると、南の提案は聞き入れられなかったと」  南の母、山寺瑠璃子(るりこ)さんは国民的な名探偵アニメの大ファンで、顎に手を当てて現状を推理中。アニメオタク兼アイドルオタクでもある。  ポンポンと肩を叩いてくるのは、南の父である山寺虎雄(とらお)さん。 「拓哉くん、こっちにおいで」  鋭い眼光は刑事が容疑者を見定める視線そのもの。標的を捕らえたら名の通り離さない。さすが、捜査一課の刑事。 「はい」  俺は、チラリとベッドに俯いている南に視線を送りながら、彼女の部屋を後にする。
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