プランB 推しを知れ

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 手拍子が、ギャン泣きしていた子供を泣き止ませ、会場全体があったかな空気へと変わっていく。  よろよろ  よろよろ  とよろめきながら動くクマッたを着た俺。 「つかれたよぉ~」  河北お姉さんに最後のワンフレーズを歌い終えるのと同時に、俺もそのように動きを合わせていく。  パイプ椅子に座り、上体を長テーブルにもたれかけて両手を前に出し脱力して終わる。  クマッたダンスだけで疲れきった俺は、着ぐるみの中で、乱れた息を整えていく。額から汗がぶわっと吹き出てくる。  ぎっくり腰の郡上店長は、ダンスありきでこのサイン会を企画していた。本人がなかに入って踊る気満々だったのに、予行練習で腰を痛めてしまったのだ。  やりましたよ  郡上店長がいたら、グッジョブよ~と投げキッスものだっただろう。  ダンスは上々の滑り出し、問題はサインだ。この日のために何回も書いてきた特徴ある文字を俺は書けるだろうか? **** 「素敵なダンスの後はサイン会がはじまるわよ~」  いいこのみんなぁ~  はーい  会場を煽っていく河北お姉さんに、一体になるお客様。   クマッた、クマッた、ゆるかわよ~  ゴロゴロするのが、だいすきよ~  クマッたのメインテーマが流れていく。  最初のお客様は、ギャン泣きしていた5歳の女の子。 「きてくれて、ありがとう」  わずかな隙間から、嬉しそうな笑顔が見れてホッとする。女の子はもう着ぐるみではなく、クマッたとして認識してくれている。  右手にサインペンが握られる。  ドクン、ドクン・・・  ダンスの時よりも俺は緊張していた。
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