プランB 推しを知れ

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 小さくまん丸。  南が今週、何度も何度も見せてきた画像を俺は思い出している。 『ちっさ・・・』 『クマッたのサインはね、最後は波線なの』  推しを語るとき、南は意識などせずにぐいぐい近づいてくる。見下ろすと焦げ茶の髪がすぐ近くにあって、愛用しているシャンプーのかおりがして、男心をくすぐる。 『色紙にでかでかと書けばいいんじゃね?』  もう!!  見上げた南の顔が、俺とみつめあう形になっても、ドキドキしてたのは俺だけ。 『たっくんのわからずや!!』  わからずやが、サインを書いているなんて知らないだろう。  うわぁぁー  女の子の声で思い出から現実へと引き戻される俺。どちらの反応だろう?  クマッたのことわからない素人が書いたサインだと思われたのか? 「たいせつにするね」  ぎゅっと抱きしめる様子を見てホッと安堵する俺。本家本元のクマッたさんに弟子入りしようかと思ったくらい、苦労したサイン。  けれど、忠実に再現されているらしい。  よしよし、この調子。  色紙の枚数が増えていくたびに、だんだんと疲れてくる右手。 「大丈夫?コピーしたもの配ろうか?」  河北さんがこそっと囁く。本家本元のヨンリオから承諾を得て、コピーしたクマッたのサイン色紙が何枚か刷られ、用意されている。けれど、俺はゆっくりと首を振り、否定をする。  頭の中では、南の言葉が、俺を励まし続けている。 『直接書いてもらえるから、価値があるんだよ!!ねぇ、聞いてる?たっくん!!』  ガチ勢の意見を間近に聞きまくった俺。  早い時間から待ってくれたファンを裏切りたくはない。 「次のかた~」  最後尾で並んでくれていたお客様が、駆け足で近づいてくる。  気を抜くな、最後までクマッたになれなければ推し続ける人たちに失礼だぞ!!  
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