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いつも惜敗ばっかりだから、明日のレースこそ勝たせてやりたい。でも、オレが乗るわけじゃないから。オレができるのは、こうやって綺麗に手入れしてやることぐらいだ……。そんなことを思いながら、丁寧に愛馬のブラッシングをしていた。
「毛艶もいいし、明日こそ勝たせてやりたいな」
馬房の外から、主戦騎手のセージが呟いた。
「オレは乗れないから、オマエに託すよ。あと、馬場が荒れたらこのメンバーでもワンチャンあるかも」
明日こそ勝たせてやりたいのに。こんな時に限って出走メンバーが強者揃いだったりする。ここを勝って、重賞レースへの優先出走権を手に入れたいのだ。
「この仔、道悪でも大丈夫でしたっけ?」
「むしろ、得意かもしれない」
「それなら、良い作戦がありますよ!」
セージがそう言い残して、去った。なんだよ? 良い作戦って……。
しばらくすると、セージが鼻唄混じりで戻ってきた。脚立とてるてる坊主を持って……。
「オマエ、話聞いてたか?」
「聞いていましたよ。道悪、得意なんでしょ?」
そう言いながら、てるてる坊主を厩舎の入り口に吊るそうとしていた。ああ、もしかしたら逆さに吊るして雨乞いをするつもりなのかもしれない。
「ふれふれ坊主か」
「ふれふれ坊主? なんですか? それ」
「え? てるてる坊主を逆さに吊るして雨乞いするつもりなんだろ? だから、ふれふれ坊主」
「え? 逆さに吊るしたら雨乞いになるんですか? 初めて聞きました!」
セージは、てるてる坊主を吊るすと、ビニール袋を切ったものを、それに被せた。
「ふれふれ坊主は知りませんが、こうやって、てるてる坊主にカッパを着せると雨になるんですよ!」
「……ホントかよ?」
カッパを着せた、かわいらしいてるてる坊主を目にして、つい鼻で笑ってしまった。
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