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体育倉庫の死体③
体育倉庫で男の遺体が発見された後、校内は大騒ぎになった。
ハルと怜司は教師を呼びに校舎に走ったが、その前に部室棟から美術教師の竹中がやってきた。体育館からは練習中のバレー部員が出てきて、倉庫の周りには人だかりができた。
警察はすぐにやってきた。
部活動は中止。全校生徒は一斉に帰されたが、第一発見者の多聞と鮎川は長時間拘束された。
警察の聞き取りがやっと終わり、二人は今、ファミレスにいる。
「秀一、消えたな」と多聞はハンバーグを食べながら不満顔だ。
「従兄弟に迷惑がかかるから、警察に関わり合いたくないって言ってたね」鮎川はサンドイッチを口にする。「彼、警察関係の人が親戚にいるのかも」
「あいつが死神とか言い出したのが始まりだろ」
「死神って、どんな姿してるんだろうね」
「信じるのか?」
「怜司は子供の時、小人が見えたんだって。タンス開けたら、いたらしいよ。家中何人も小人が住んでたけど、どんどん姿が見えなくなったんだって。年取って、魂が汚れたせいかもって、しょげてた。秀一はまだ汚れてないんじゃない?」
「魂がきれいだと、死神が見えるのか? おかしくね? 逆だろ」
完食した多聞は、メニューに手を伸ばした。
「秀一が死神を見たので、耳を澄ませたら体育倉庫から物音がしました。だから僕たちは中に入ったんですって言ったら、警察が納得すると思う?」
そういうことではない。
多聞が気に入らないのは、秀一がとっとと先に帰ったことだ。
篤人、怜司、ハルは残ってくれた。二人の取り調べが終わるまで、校内にいてくれた。
「食い足りねえ。鮎川は?」
「僕はいい」
「割り勘だぞ」
「本当にいらない」
多聞は呼び鈴を押した。
「俺、今日バイト休んで、店長に迷惑かけちゃったよ」
「あのカフェ、僕のお気に入りだったのに、君が働き始めてから女の子が増えてうるさくなった」
「鮎川、倉庫の絵、描いてたよな? 何も見なかったのか?」
鮎川は黙った。
小さくサンドイッチを食べる。
多聞は鮎川の言葉を待ったが、スマホがなり画面を開いた。
「ハルからLINE来た——あの死体、篤人のボディガードだったらしい」
「警察官だったの? 篤人の身辺警護に警察官がついてるって、聞いたよ」
「あいつ、どんだけVIPなんだ」
「母親の方はただの旧家だけど、父親は財閥御曹司なんだよ。篤人の家は女系相続だけど、その人は婿養子が嫌だから籍を入れなかったんだって」
鮎川と別れた多聞は、自宅に着いた。
駅と直結した高層マンションの一室。鍵を使って玄関扉を開ける。きちんと片付いた室内で曜日が分かった。
月木は家政婦が来る日だった。
奥のリビングからは大音量のテレビの音がする。
多聞は暗い廊下を通り、煌々と明かりがつくリビングに向かった。
太った女がいびきをかき、大きなソファで眠っていた。
テーブルには食べかけのピザやビールの空き缶が散乱している。
多聞はテレビを消して、エアコンの温度を下げた。近くに落ちているショールを女にかける。
昔、若くて美しかったこの女の姿を、多聞はまだ覚えていた。
(親父のことなんか、諦めちゃえばいいのに)
あの男は二十五を過ぎた女には、興味をなくす。
(そんなの、あんたも分かってただろ?)
——あんただって若い時に、奥さんからあの男を奪ったんだからさ。
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